28 結局のところ、さよならだ(1)
結局、冒険者ギルドへ盗賊を引き渡した報奨金として、金貨2枚もらう事になった。
まあ、ハニトラが一掃しただけで、俺は何も出来てないから、ハニトラのものだけどな。
これで、ハニトラもまともな服が買えるというものだ。
服を着てもらえる。
それと引き換えに、隣に立つ銀髪美少女が、異様な存在に見えるようになってしまったが。
隣の少女を盗み見る。
人間じゃない、のか。
そう思いながらよくよく見れば、腑に落ちる点がある。
裸になる習性。
おかしな癖っ毛。
あれだけ人間に近い姿なら、人間の文化を知っててもいい気はするが。ゾンビみたいなのもいるしな。
とりあえずハニトラがブーツと下着、それに寝る時の部屋着を買った。
出来るだけしっかりしたものを買ったし、これで易々と脱ぐ事はしないだろう。
そのはずだったのだが。
その翌日の朝の事だった。
カタカタという音に目を覚ました俺が、薄目を覗かせてみれば。
ハニトラが、針と糸で破れた服を繕っている姿が見えた。
それが、なぜか一糸纏わぬ姿で椅子に座っていたのだ。
???????
寝起きの頭を働かせ、ああそうかと思う。
服を繕っているのだから、服は着れないよな。
いや、そうじゃないだろ。
部屋着も下着もあるはずだ。
ハニトラは針と糸とで裂けてしまったスカートを丁寧に繕ってから、布の足りなくなったところを革紐で補っていく。
器用なもんだな、と思いつつ、腕の間からチラチラと覗いている胸はご遠慮願いたいと思う。
昨日の光景を思い出す。
そして、どうしても想像してしまうのだ。
うっかり手を出してしまいシーツに舞い散る血と、千切られた俺。
ハニトラが魔女の手下である可能性だってあるんだ。
このままじゃ、居られないよな。
離れるべきだ。
こんなヤバいやつと、いつまでも一緒にいるわけにはいかない。
金貨2枚を持たせて、お帰り願おう。
その日の朝食時。
相変わらずのおかみさん手作りのサンドイッチを、部屋に持ち込んでいただく。
向かい合って座り、サンドイッチにかぶりつく。
なんとか服を着てもらったハニトラに向かって、口を開いた。
「君も、金貨を手に入れた事だしさ、これなら一人で大丈夫だろ?」
「え?」
と聞き返すハニトラの顔を、俺は直視する事が出来なくなっていた。
「俺、ここを出るよ」
「じゃあ、私も……」
少し、戸惑う声が聞こえた。
「いや、君はここで、故郷の情報を集めるといい。俺は一文無しだからさ」
笑ってみせる。
うまく笑えはしなかったが、ハニトラに別れを告げるだけならば、それで十分だった。
「私も、一緒に、行くよ」
ハニトラがこちらをじっと見ていたものだから、その目と目が合った。
じっと見つめるその瞳は、人間じゃないなんて思えない。
深い色の青の瞳。そこには確かに感情があった。
「お金は全部はもらえない。あなたが助けてくれたから、私も今、ここに居られる。お金は一緒に使おう?一緒に居れば、あなたもお金には困らないでしょ?」
痛いところを突いてくる。
けど、ここで折れるわけにはいかないのだ。
俺だって、千切れてジ・エンドはごめんなんだ。
ハニトラちゃんは、ハニトラちゃんなりに人間社会の事を勉強してそうです。……服を着るのは苦手そうですが。




