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静かにしろよ、ハニー・トラップ!  作者: 大天使ミコエル


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27 ハニー・トラップ(4)

 え………………?


 一瞬、何が起こったのか分からなくて。


 どうして目の前にあの綺麗な腕が落ちているのか分からなくて。


 それが取れてはいけないものだと気付くのに、時間がかかった。


「う…………うわああああああああああ」


 声が、出る。


 なんだよこれなんだよこれなんだよこれ。


 顔を上げる。

 ハニー・トラップを見る。


 その銀髪の後ろ姿には、確かに右側の肘から先が無かった。


 左によろめく。

 けれど、ハニー・トラップは、足を緩める事はしなかった。


「私の、大事な、服なんだよ」


 強い声がした。


 ピシュン。


 左腕までもが、後ろ側へ飛んで行った。


 ハニー・トラップがよろける。


 けれど、まだ、先へと歩く。


「ハニー・トラップ…………?」


 肘の上あたりで切り落とされた腕から、透明の液体がぼたぼたとこぼれた。


 その瞬間だった。


 ピシュン。


 狙われたハニー・トラップの右足が、その攻撃を避けた。

 ハニー・トラップの身体が、バネの様に1メートルほど飛び上がったかと思うと、その切り落とされたはずの両腕から、何かが生えるように、黒い刃物が伸びる。

 まるで、シミターのように弓なりの長い刀。


「は!?」


 目の前で、何が起こっているのか理解できずに見ていると、そのまま、その腕の後ろ側に、さらに4本の刀が生えた。


「は……!?」


 なんだあれなんだあれなんだあれ。


 盗賊も大声を上げ後退っているところを見ると、これは一般的にある現象ではないようだった。

 盗賊達は5人とも、驚愕の色をした大声を上げながら、剣を振り回しはじめる。


 その中で、盗賊の一人が叫んだ。

「魔物だ!!」


 魔物?


 ハニー・トラップが……?


 ユキナリは、あまりの事に動けずにいた。

 あまりの事態に、目が離せなかった。


 クルクルと踊るようにハニー・トラップが舞う。

 不思議な癖っ毛の銀色の髪が、キラキラと流れる。


 ハニー・トラップは、あっという間に盗賊5人をその刀で斬り伏せてしまった。


 ……それぞれ、足を切られ動けなくなっているようだが、生きてはいる。


 ハニー・トラップは、最後まで足掻いていた盗賊に刀の先を突きつけた。


「あなた達を、許す事は出来ない」


 剣姫とでも言えばいいだろうか。

 その姿は、あまりにも美しい。


 盗賊達が、青ざめた顔で震える。

 もう、戦う気力はないようだった。


 そして、そんな大乱闘の後ろで、青ざめた男がもう一人。


 よ、よよよよよよよかったああああああああああああ!!!!!


 裸で抱きつかれた時、襲わなくてよかった……!!これ、手出してたら絶対あの刃物で千切られるヤツじゃん!!!!血の海になったシーツで死ぬとか、冗談じゃないぞ。


 ハニー・トラップがこちらへ振り返り、刀を振ると、刀身についた血がピシピシッと弾けた。

 腕を拾い上げると、引っ込んでいく刀と共に、つぷつぷと腕がくっついていく。


「…………」


 なんと言っていいのか分からないまま、そこへ通りかかった馬車に声をかけられ、盗賊を町へ引き立てる。


 馬車に乗せる為に縛り上げた盗賊を持ち上げる時、ハニー・トラップが揚々と盗賊へ近付いて行ったので、そこで『魔物』という言葉が頭をもたげた。

 けれど、

「ふぬ〜〜〜」

 なんて言いながら、1ミリも持ち上がっていないのを見て、「フッ」と笑いが漏れる。


「何してんだ、ハニトラ」


 血だらけの盗賊に手をかけたまま、ハニトラがこちらをキラキラした瞳で見つめた。


「えへへっ」

 と呑気な笑顔が、森の中に咲いた。

というわけで、ヒロインに名前がつきました!

ハニトラをこれからもどうぞよろしくね!

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― 新着の感想 ―
[一言] 「えへへっ」 が、「血だるまにした盗賊を片手で持ち上げる努力したんだよ!偉いでしょ!」の笑顔だということに目をつぶれば、可愛い……でも持ってるのは血だるまにした盗賊……。
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