23 銀髪の女の子(4)
これはあれか…………。
据え膳食わぬはってやつか…………。
もしかして……食っていいのか…………?
だって相手は、裸で抱きついてくるような奴だぞ?
ゴクリ。
唾を飲み込む。
体制を変えると、吸い付くようなおっぱいの感触が更に伝わり、心臓がバクバクする。
手を出しそうになって、そこで妙な違和感で手を止めた。
ちょっと待て。
おかしく、ないか?
俺は、女性から好かれない呪いを受けていたはずだ。
それは、悲しいけれど、この世界の多くの女性で実証済み。
昨日の女の子を思い出す。
はにかんだ笑顔。
嬉しそうに名前を呼ぶ声。
好意がないなんて思えなかった。
けど、好意があるなんておかしくないか?
手を、出すのは危ない気がした。
そもそも、なんで服脱いでんだ?
全裸で生活させられていた奴隷か何かなのか?
それとも、ヒトに服を着せてもらわないとまともに着ていられないお金持ちのお嬢様?
それとも……。
俺は、一つの可能性について考えていた。
これが、可能性としては一番高いような気がした。
つまり。
こいつが、魔女が寄越した……。
「ハニー・トラップ……」
なんじゃないかって事だ。
その瞬間、ゆっくりと銀髪の瞳が開けられる。
「ハニー…………トラップ……?」
あ、嫌なところを聞かれてしまった、と思った。
けれど、女の子の反応は、予想外のものだった。
「可愛い言葉だね。それ……、私の名前?」
少し、困惑する。
「いや、こんな言葉、名前にするもんじゃない」
「そうなの?」
と言った女の子が、ぎゅっと胸を押し付けてきたので、あながち間違いではないのではと思わされる。
なんとか女の子を引き剥がし、服を着てもらう。
ため息を吐いて、金を数えた。
おかみさんは、同じ部屋のままなら銅貨6枚で泊まらせてくれると言ってはいたけれど。
きっと、食事は厚意で作ってくれているのだろう。いつまでもお世話になるわけにはいかなかった。
この女の子をどうにかしないといけない。靴だって下着だって必要だろう。食事だって……。
そこに、銀貨5枚銅貨2枚という現実は厳しかった。
とはいえ、しょうがない。
無一文の女の子を拾ってしまったからには、ある程度無事で旅立って欲しかった。
「まず、食事をして冒険者ギルドに行こうか」
女の子に笑いかける。
ベッドに座っていた女の子は、キョトンとこちらを見る。
「知らない場所の事を知るには、まず冒険者ギルドで聞くのがいいんじゃないかと思うんだ」
家探しが目的である事を理解したのか、女の子は温かい笑顔で笑う。
「うんっ」
……それに、できれば今日も、初級ダンジョンに潜りたいからな。
昨日のゾンビを思い出す。
今日はもっと、うまく動けるはずだ。
短剣を腰にぶら下げて、さあ出掛けるかと後ろを確認した俺は、
「うわぁっ!!!!」
すかさずドアを閉めるしかなかった。
そこには、またすっかり服を脱いだ女の子が、素っ裸のまま俺について来ようとしていた。
「だからなんでだよ!」
ツッコむと、女の子の胸がそれに返事をする様に、ぽよんと揺れた。
なんと!まだ服を着てません!




