228 静かにしろよ、ハニー・トラップ!(2)
そして3日後。
慌ててセッティングしたにしては、なかなかいい雰囲気の祭り会場が出来上がった。
「大丈夫なの?ナーナ」
「大丈夫よ」
しばらく療養するかに思えたナーナも、祭りには女王として参加するという。
横でオロオロするサラに、ナーナは表情を硬くしながらも、決意の瞳を向けた。
「私も司祭の娘です。魔女に、あんなもの問題にもならなかったと意思表示したいの」
流石のサラも、その言葉には折れるしかなかった。
そんなわけで、ナーナを女王に迎えた祭りは始まったのだ。
「いらっしゃい」
「きゃー!!!!」
出店で客を迎えたユキナリが、一言口にしただけでこの有様。
……焼きとうもろこし売ってるだけなんだが……。
後ろでバキン、と生のとうもろこしが粉砕される音がする。
デレデレしてるわけじゃない。むしろ怖いと思っているのにその反応はないんじゃないか……。
改めて、これが魔女の新しい呪いなんじゃないかと思う。そんなバカな……?いや、絶対そうだ。
実際、モスの畑で作られたとうもろこしは絶品だし、ヤスさんから教わった山香派の味付けをアレンジしたものなので、味も最高。
別に俺の呪いのせいだけで売れてるわけでもなんでもない。
とはいえ、言い訳の一つでもしたほうがいいのかと、後ろを振り返る。
すると、後ろでは涙目のハニトラが、ペロペロと粉砕したとうもろこしを芯ごと食べている最中だった。
うっ……。
泣かれるとよけい心にくるわけで……。
ユキナリは、空の一番星を眺める。
「あ〜……、ヤスさん?」
隣の出店で魚のフライを売っているヤスさんに声を掛けた。
「ここの出店、まかせてもいいかな」
するとヤスさんは、ニヤリと口の端を上げた。
「みんな!」
そう言うと、ユキナリはハニトラの手を取る。
「仕事は終わりだ!祭りにいくぞ!」
「…………!」
ハニトラが、涙目のまま嬉しそうに笑った。
「うん!」
祭りの夜が来る。
すっかり暗くなった広場で、ランプの光が一つずつ灯される。
ユキナリが、ハニトラと向かい合う。
「一緒に踊ってくれる?」
するとハニトラが、ぽぽぽぽぽ、と音がしそうな顔をした。
……魔女の呪いって、魔物には効いてないよな……?
赤い顔でポカンとしているハニトラの手を、半ば強引に引く。
「ユキナリ……!」
音楽に合わせて、くるりくるりと二人で踊る。
視界に、マルとトカゲが一緒になってクルクルと踊る姿が見えた。
イリスは、自分の姿のせいか躊躇していたようだが、ナーナに手を引かれ、隅でゆっくりとステップの練習を始めた。
広場の中で、楽隊の音楽が流れる。
一際明るい街の明かりの中、人々は笑い声を上げた。
煤汚れた弦楽器、少し欠けた笛。その笑い声もどこか、いつか傷ついたものだったけれど。
目の前で、少し変わった癖っ毛の少女が踊る。
ユキナリは、幸せだと思う。
ずっと、みんなと、こうしていたいと思った。
そしてみんなで、最後は笑うんだ。
次回、最終回です!よろしくお願いします!




