227 静かにしろよ、ハニー・トラップ!(1)
「ずいぶん張り切ってますね!」
というのは、ユキナリの横で鼻をフンスカしながら意気込んでいるハニトラに向けた、イリスの言葉だ。
「まあ、私は、ユキナリの妻なので」
「はっ!?」
「え!?」
「キュ!?」
マル、イリスに加え、トカゲまでもがハニトラに驚きの視線を向ける。
「ユキナリ様……!ま、まさかプ、プププププププププププロポーズ…………」
「してないよ」
あっさりと言ってみせる。
好きだとは言ったが、結婚しようなんて事は言った覚えがカケラもなかった。
「言ってないじゃありませんの!!」
驚いたのも相まって、マルが力一杯ハニトラを前足で小突いた。
「図々しい弱弱弱弱弱弱弱弱弱弱弱弱さんですわねっ!?口を慎みなさいませ!」
ハニトラは、そんなマルの事など眼中にもないようで、
「うふふふふ」
と、ニヤついている。
「時間の問題だもん」
「ぬわぁ〜にが時間の問題ですの!!」
「でも私、一緒に住もうって言われたし」
「そんな事なら、わたくしも言われましたわ」
「!!??」
マルの言葉に、ハニトラが言葉にできないほど面白い顔をした。
「それならイリスも言われました」
「!!!???」
予想外の方角からの攻撃に、更に面白い顔になる。
思いがけぬ修羅場だった。
俺も、面白がって見てる場合じゃないかもしれないな。ここは逃げるか……?
「キュ……?」
予想外に傷ついていたのはハネツキオオトカゲだ。
そりゃあまあ、確かにトカゲには一緒に住もうなんて言ってないからな。
「お前は、好きなだけ俺と一緒にいるだろ。行きたい場所があるなら行っていいし、いつまでだって一緒にいていいんだ」
まあ、トカゲ一匹で生活するにも、限界がありそうだからな。
トカゲを撫でてやると、ギュイン、と鋭い視線を感じた。
いや……これもプロポーズではないぞ?
ユキナリ達は、復興作業と同時進行で行われる事になった祭りの準備に取り掛かっていた。
モスが壁を張り直す作業をするついでに、人々も祭りを行う事になったのだ。
始めの祭りの準備と比べれば、小規模なものにはなったが、人々はそれぞれ自分の物を持ち寄り、楽しく過ごそうと懸命に足掻いていた。
意識的に楽しむことこそが、この街に必要な……、ひいてはこの国に必要な事なのだと、みんなが知っているようだった。
みんなで街を練り歩く。
ユキナリが出店の場所チェックを進める間に、ハニトラとトカゲで街中に花を飾りつけていく。
イリスは歩きながらまだ多く残っている怪我人の怪我を治して回っていたし、マルはその患者の相手をしながらその患者周囲の復興状況を見定めていた。
「あら、お兄さんかっこいいわね」
そして相変わらず、妙に異性から声をかけられるようになった。
その度に、ハニトラとマルからの視線がギュイン、と突き刺さる。
ハニトラが寄って来て、ユキナリの腕を掴んだ。
「でしょう?私の自慢の夫なんですよ〜!」
「ハハッ」
ユキナリは苦笑するけれど、正直こんな光景も悪くない。
こんな日が来るなんて、思ってなかったもんな。
ユキナリは、みんなの姿を振り返る。
これが、幸せってやつだ。
あと2話でこのまままとめたいと思います!




