224 魔女との戦い(4)
崩れ落ちたゴーレムと灰色狼の破片は、とうとう砂となった。
ルヴァの風で舞い上がる。
イリスが、手を合わせ祈る。
「安らかに」
一行は全員一つに集まった。
ユキナリが、東を見る。
「魔女を追う」
ひとまず、他に騒ぎになっている場所はないようだった。
あと、この都市に入り込んでしまったのが魔女だけだと信じて。
また、イリスの足場を風に乗せ、一行は東へ向かった。
東側の、入り組んだ街の中。
「こう、路地が多いとどこにいるのかわからないな」
「コソコソ隠れるタイプか?」
「一人は一人だろ……。壁は通り抜けられないはずだし」
魔女が追い詰められているとは思えないが、手下達の近くで、こちらを窺っているだろう。
ユキナリは目を凝らす。
少女だ。
10歳くらいの。茶色い髪の。特徴がない少女。
いや、本当に?
元に戻れないのか?
街中の人混みに目を凝らす。
日本では、木を隠すなら森の中、なんて言うわけで。
魔女の容姿は、どんなだった?
出会った時の姿を思い浮かべる。
正直、マシュマロおっぱいの記憶しかないが。
もっと上だ、上。
思い出せ。
人が行き交う道を見る。
誰もが混乱している。そんな中で、確かに少し小走りを装ってはいるが、周りを見渡しながらのんびりと歩いている女性を見つけた。
服装は街の女性達とそう変わりはないが、その黒く長い髪はそれほど馴染んでいるとも思えない。
「アレだ」
短剣を構え、ユキナリは空中から飛び降り、そのまま切りつけた。
「きゃあ!」
「白々しいな」
ユキナリの周りに、仲間達が降り立つ。
魔女は、コテン、と首を傾げた。
「なんでわかっちゃったのかしら」
魔女は、「ふふっ」と笑った。
「こういう絵本あるじゃない?なんとかを探せ〜みたいな」
ユキナリは、昔読んだ絵本を思い浮かべ、眉を寄せた。
「何言ってんだ」
とはいえ、魔女を刺すと殺せるのかどうかはわからない。閉じ込めたところで、本当に逃げる事が出来ないのかわからない。
わからないだらけで、無理に手を出す理由もない。
様子を伺いつつ、魔女を縛り上げ捕まえるのがいいだろうか。
封印、みたいな感じ、か?
「ルヴァ!」
「おう!」
呼びかけに応じ、ルヴァが魔女を囲うように竜巻を呼び出した。
ゴウ……ッ!
けれど、魔女は、得体の知れない力を持っている。それは、この世界では、万能でもある力だ。
「キレイな竜巻、ね」
ユキナリの耳元で声がした。
「…………!」
ズサッと飛び退る。
仲間達も、それから距離を取った。
そこに居たのは、魔女だった。
やっぱり、魔女を閉じ込めるのは無理なのか……。
魔女の命の場所を突き止めて、やってしまうのが一番いい方法なんじゃないかと思ったその時。
「あなたって大胆」
魔女の指が、ユキナリの首筋をなぞる。
「やめ……!」
魔女の手を払う。
ハニトラが、怒ったように激しく身体の表面を棘だらけにした。
「けど、そのおかげで、面白い事思いついちゃった」
魔女と正面から向かい合う。
ユキナリが魔女の首に短剣を突きつける。
その短剣に怯むことなく、魔女は顔をユキナリに近づけた。
マルの肉球にぐっと力が入る。
キスでもするんじゃないかと思えたその距離で。
魔女は、ユキナリに囁いた。
「あなたのチートスキル『異性に好かれなくなる』を、『全ての異性に好かれる』に」
「は?」
「もちろん、この魔女カタライ、も」
魔女の指先がユキナリの胸元を這う。
ユキナリがグッと短剣に力を入れたところで、刺したはずの魔女は、空気に溶けるように何処かへ消え去ってしまった。
ラストバトルはここまで、です。残念ながら引き分けということで。
229話まであと5話。よろしくお願いします!




