223 魔女との戦い(3)
「マルチネスさん……!」
イリスがマルに手助けをしようと動いた瞬間だった。
ズン、とまた地面が響いた。
イリスの視界に、マスターが媒介となっていたゴーレムの姿が映る。
「マスター……!」
巨大なゴーレムと、そしてその周りにも人間一回り大きくしたサイズの数体のゴーレム達が取り囲んでいる。
……ゴーレムがまだ居たなんて。
イリスの魔法が揺らいだ。
「イリス!」
そこへ飛び込んできたのは、ユキナリの声だ。
「ユキナリさん……!」
「イリス、下がってろ……!」
イリスにかけられた声は、心配をしている声だった。
ユキナリだけではない。
「キュゥ!」
トカゲもマルもハニトラもみんな、イリスの事を気遣っていた。
イリスが大切な人達を手にかける事がないように。
そうです。もうイリスは、こんなところでへこたれません。
みんなが居る。
みんなが居るから。
イリスの足は、もうぐらついたりしない。
イリスがゴーレム達を見つめる。
それは、慈愛の目だった。
「あれでも……、あれでもイリスの弟達なんです」
イリスが一人、ゴーレム達の目の前に立ち塞がる。
「だからイリスが……、イリスがマスター達をやります!」
「大丈夫、なのか……?」
「はい」
「ああ、じゃあ、俺達は援護に回る」
「はい!」
泣くのを我慢した。
石で出来ているから泣くなんて出来ないのに。
マスターはどうして、こんな感情をイリスに植えつけたのだろう。
マスターだった黒い液体が、所々ヒビ割れた巨大なゴーレムから、名残のようにポタポタと垂れる。
「大丈夫ですよ、マスター」
ゴーレム達は、それほど速くは動かない。
けれど、どうやら人間を潰す為に追いかけ回しているようだった。
「もう、そんな辛い事はさせません。イリスの家族達に、安寧の眠りを」
イリスが腕を上げると、全てのゴーレムが宙へ浮き上がった。
「こちらもお願いしますわ!」
刃を咥え、狼を切り付けながら誘導してきたマルが合流した。
「キュイ!」
グワッとトカゲが炎を吐き、狼を広場の中心へ追いやった。
頭上には、宙に浮いたゴーレムがある。
「全てを包み込む風の精霊ルヴァ」
そう唱えると、ユキナリの後ろにルヴァが降り立ち、短剣が光った。
「あのゴーレム達に、安寧の眠りを」
「ああ。安寧の眠りを」
ルヴァが手を振りかざすと、ゴーレム達を取り巻く風が起こる。
風はゴーレム達を包み込み、その風に触れたゴーレムは、小さな石へと変わっていった。
下には、灰色狼がいる。
「全てをあの狼へ」
ユキナリが容赦なくそう言うと、全ての石が灰色狼へと凄まじい勢いで降り注ぐ。
「ぐあっ!ああっ!助けてくれ……!助けてくれマルチネス!」
叫ぶ狼に、マルは冷めた瞳を向けた。
「ええ。助けて差し上げますわ。あなたにも、安寧の眠りを」
そして魔女を追う一行ですね!




