221 魔女との戦い(1)
「ハニトラ!それを外へ!」
言ってから、
「全てを守る盾、土の精霊モスよ!決して魔女を逃がす事がない力を!」
短剣を握る。
あれを切れば、全ては終わるはずだ。魔女が死ぬはず。
もう、元の世界に帰ろうとは思わない。呪いも解けなくていい。
もう、魔女に脅かされる世界ではなくなるように。
「盾で、囲う!」
ユキナリは扉から外へ出ると、ハニトラが投げた魔女の心臓を包むように土の盾を展開させた。
切る時に、分裂したり誰かに飛んだりするのはきっとよくないはずなのだ。
しかし、包み込める、と思われたその直前。
誰かの腕が、その心臓を鷲掴みにした。
誰か、なんて、そんなのは一人しかいない。
魔女だ。
また同じ少女の姿で、魔女はユキナリの前に立っていた。
「魔女……!」
魔女は目の前にいる人間達が見えているのかいないのか。
「その子が自分で死ぬところ、見たかったなぁ」
一人、恍惚な表情を作る。
「もしくはぁ、ユキナリくんが殺すところぉ」
一か八か、ユキナリは魔女の心臓に飛び掛かっていった。
あれを切りさえすれば……!
けれど、魔女はニッと笑顔を作ると、両手に挟んだ魔女の心臓をまるで手品のように、元々そこに何も無かったかのように、手を重ね合わせ魔女の心臓を消した。
「ざぁんねん」
そして、目の前に居たはずの魔女が消え失せる。
「どこ……に……」
その瞬間、すぐそばで声がした。
「捕まえた珍しいスライムも、ぜーんぶ食べたかったのに」
「…………!」
ガバッと振り返ると、そこに、魔女がいた。
手を伸ばし、スルスルとハニトラを触る。あまりいい気分ではなかったのか、ハニトラはプルプルッと震えた。
魔女の家での、食卓の風景を思い出す。
……本当に食べて…………。
ユキナリはサッと青くなった。
「お前にはハニトラは渡さない」
「ふぅん?」
魔女は、スッと目を細める。それは、少女とは言えないほど大人びた表情だった。その少女にはそぐわない表情に、また少し気分が悪くなる。
魔女は、そこで大きく後ろへ飛び退った。
ルヴァが、その場所を見失わないよう、大きく上へ飛ぶ。
「魔女を追う!ここで仕留めてやる……!」
ルヴァの言葉に、ユキナリが短剣を構えた。
その時だった。
遠く、地鳴りが響いたのは。
「……地震?」
「いや、」
頭上からルヴァの声が降って来る。
「魔女の軍団だ」
それは、魔女が率いる軍団だった。
前回やって来た時と同じようにゴーレムも居たけれど、それだけではない。
魔女の側についた魔物達も、武器を携えこちらに向かってきていたのだ。
「このまま放っておくわけにはいかないな」
ユキナリは、後ろを見渡す。マル、イリス、トカゲ。頼りになる仲間達だ。
「どうにかして食い止めないといけないな」
「ですわね」
「キュイ」
「はい」
気合いは十分。
そんな風に、魔女との戦闘は始まった。
さて、魔女に勝つことはできるのでしょうか。




