220 ハニトラの仕事(2)
ベッドにクッションを大量に積み、ナーナにはそこにゆったりと座ってもらう。
魔女の心臓は口から入ったのだから、胃の上のあたりにあるんじゃないかと見当をつけた。
ハニトラには腕を出来るだけ細くしてもらい、口から入れて魔女の心臓を探ってもらう。
形を確認し、身体に食い込んでいるものまで綺麗に取り除いてもらうのだ。
日本で普通に行う手術なら、道具の殺菌が必要不可欠なのだろうが、流石にスライムの皮膚がどうなっているのかわからない。
そこで、イリスに居てもらい、魔女の心臓を取り出した直後に治癒魔法をかけてもらう事にした。
全員が見守る中、手術が始まる。
ナーナがぎゅっと目を瞑る。
大げさなのでは?とちょっと思ったけれど、その直後、ハニトラが、ジャキン!と腕を触手だらけにしたので、それが正しい選択なのだとわかる。
「……口を開いて。ナーナ」
ハニトラは話さないので、ナーナの手を握っていたサラが指示を出す。
小さく口を開いたナーナに、
「いくぞ、ハニトラ」
ハニトラの触手が迫った。
太……。
想像以上に太い触手だった。先端が数え切れないほどの細い触手で蠢く。
それを口に……?
「ん…………っ!んく…………っ!」
うにゅん、と触手が気道を確保する形に整えられるけれど、それにしても太いその触手は、案の定、ナーナを息苦しくさせたようだ。
「あぐ……っ……!ぅんんっ!」
息苦しさからなのか、ナーナの顔が赤く染まる。身悶え、その手がシーツをぐっと掴んだ。口から涎が垂れ、目には涙が浮かぶ。
「はぐ……っ、んぅ……!」
いや、ちょっと待て。これ、見てもいい場面なのか?
ナーナに対してはそもそも“異性に嫌われる呪い”も効いていて、正直ユキナリは、ナーナとまともに話した事はない。嫌がられていたりしないか……?
オロオロしていると、足をマルの前足に小突かれた。
……いや、いかがわしい目で見ているとかそういうのじゃないんだ。うん。出来るだけ見ないように……真剣に見守らないとな……。
ハニトラの仕事は実にそれから3時間はかかった。
ハニトラはその間、疲れを見せなかったし、他の見守っているメンバーも気を緩める事はなかった。
ただ、
「大丈夫よ、ナーナ」
と、サラがナーナを励ます声と、弱って来たナーナの悶える声だけが部屋の響いた。
「このままじゃ……」
サラが静かに言う。
「ナーナの体力がもたなくなってくる……。一度休憩出来ないかしら。せめて、水を飲ませるだけでも……」
心配する気配が、部屋の中に増していった、その時だった。
「んが……っ!あ……っ!」
ハニトラが、その腕をナーナの口から引き抜いた。
「はぁ……!はぁ……!」
全員が、その腕の先に注目した。
そこには確かに何か蠢くものが手にされていた。
大量の棘を生やした“魔女の命”と呼ばれるものが、その腕の先に捕まえられていたのである。
あと9話でどこまで書けるかな〜?




