22 銀髪の女の子(3)
「なんでだよ!!」
つい、ツッコミを入れてしまう。
それでもその胸は破壊的で、こっちは冷や汗ダラダラだ。
おかしいだろ。いただきますで服脱ぎ出すとか。
そういう文化?
「お、お願いだから、服は着ててもらえるかな」
気合を入れて、女の子の顔を凝視したまま言った。
気を抜くと間違いなく見てしまう。
「でもこれ、貰ったもので……大事にしたい」
「汚れても構わないから!」
なんとか説得し、服を着てもらい、テーブルに備え付けられている2脚あるうちの一つの椅子に座らせた。
「いただきます」
女の子が、丸い口を開けてサンドイッチを頬張る。
食欲はありそうでよかった。
部屋に備え付けの水差しから、木製のコップに水を汲んでやる。
「ほら、慌てるな」
「う、うんっ」
落ち着いてきたところで、話し出す。
「俺は、ユキナリ。伊藤幸成。20歳だ」
すると女の子は、嬉しそうにこちらを見た。
「よろしくね」
「私は……」
女の子は、手に持ったサンドイッチを眺める。
「名前は、ない」
少し、ドキリとした。
こんな世界だし、万が一、奴隷だったから名前がない、なんて事もあり得るんじゃ無いかと思った。
けれど、そんな心配は杞憂だったようだ。
「私がいたチュチェスの村では、みんな名がないの」
「……へぇ、それは、お父さんとかお母さんとかもみんな?」
「そう。父も母も名前がなかった。そういう……一族だから」
そして女の子は、その目を窓の外に向けた。
小さな窓から見えるものなんて、宿の裏の畑くらいのものだったけれど、その真っ青な目は、何かが映っているんじゃないかと思うくらいに、澄んでいた。
「歳は、16」
年下か。
まあ、見た感じ年下なので、これは予想の範囲内だ。
「チュチェス……の村?に帰るだろ?」
すると女の子は、ガバッとその目をこちらに向けた。
泣いてしまいそうな。それでも期待しているような、そんな目で。
「もちろんっ」
「俺、村の情報収集くらいなら、手伝ってもいいよ」
俺だって、生きるだけで必死だし、きっとそれくらいしかしてやれる事もないだろうけど。
その村の方角へ見送るぐらいの事はしたかった。
「あ、ありがとう!ユキナリ!」
…………突然の名前呼びですか。
ちょっと恥ずかしくはあるけれど、悪くない響きだ。
今思えば、女性の声で名前を呼ばれるのは、この世界に来て初めての事だ。
それはなんだか懐かしくて、なんだかくすぐったかった。
けど、そんな女の子に少し違和感を感じながら、その子に一つしかないベッドを譲り、更けていく夜を眺めた。
「ん…………?」
床で寝た、はずだった。
けど、なんだか柔らか……い…………。
目を開けると、床に寝ている隣に、女の子は寝ていた。
は!?
驚いたのは、そこに居たからだけじゃない。
女の子は、俺の腕に抱きついていたのだ。
よりにもよって、またもや、一糸纏わぬ姿で。
なんで!!!!????
腕に、温かで柔らかい感触が張り付いていた。
弾力がある、全ての力が抜き取られそうなその感触。
そこには柔らかな双丘が……なんていう文学的表現をする余裕なんてなかった。
お、おおおお、お、おっぱい!!!!
おい!!
起きろ!!!
残念ながら、何処を触っても柔らかく艶やかでアウトな気がした。
なんでだよ!!!!!
ヒロインが服を…………やっぱり着てないな!?