219 ハニトラの仕事(1)
ふと思いつく。
「ハニトラ」
呼ぶと、ぷるんと返事をした。
「お前今、どれだけ細くなれるんだ?」
するとハニトラが、いつも腕にしている部分をキュゥゥゥと細くしていく。
「え……」
これは、思いついたユキナリでさえも、驚くほどのものだった。
針よりも細い。柔らかな髪の毛だけれど、ぷにぷにとした弾力を持っている。
ハニトラの髪の毛を思い出した。
あのおかしな癖っ毛は、スライムだったからなんだな……。
懐かしく思いながらも、心臓は期待でドキドキしていた。
「マル」
「なんですの」
マルは、海塩派から貢がれた魚のフライをがっついているところだった。
「ハニトラのこの……触手が、思い通りに動かせるとしたら……、ナーナは助かると思うか?」
その瞬間、魚の尻尾を咥えたまま、マルが真剣な顔つきになる。
「そうですわね。魔女の命は身体に食い込んでいくと聞いておりますわ。その出っ張りを感知できて、正確に引き剥がせるならあるいは……」
「そう……だよな」
それは、今ここにある唯一の希望だった。
「弱弱さん、できますの?」
マルがハニトラに聞いてみるが、ハニトラの反応はない。
怒り顔のマルを宥めつつ、ユキナリはハニトラに同じ説明をした。
クルクルと首元を回る仕草は、了解の返事、だと思っていいだろうか。
俺達は、急いで火の教会へ戻った。
かくして、火の教会の扉は閉じられた。
メンバーは、ユキナリ、ハニトラ、マル、イリス。扉を守ってくれているハネツキオオトカゲ。そして、サラ、ルヴァの精霊達。ナーナとその父である火の司祭の9人だ。
目の前の大きなテーブルで、ユキナリは大きな紙に人体図を描いていく。
「口から出て、ここが胃、ここが腸。この辺りに心臓がある」
「こんな図……わたくし、医学書でしか見た事ありませんわ」
この世界では、ちゃんとした学校というものが存在しない。
それぞれの世界からやって来て、あまり知識が一元化されていないというのが原因だ。
読み書き計算の基本的なものを教える学校はあるものの、後は教会や研究所といった場所が担っているのが現状だった。
「どこにあるかはわからない、よな」
するとナーナが、自分の胸の辺りを手のひらで抑えた。
「このあたり、だと思います」
マルがハッとした。
「心臓……」
それは、心臓に近い部分。
つまり。
「魔女の心臓は、寄生するための心臓と繋がって、身体を乗っ取るのかもしれませんわね」
ピリっとした空気が流れた。
急がなくては、取り返しがつかなくなる。
そのままベッドのある部屋に移動し、対処をする事に決めた。
人体図をじっくり見たハニトラが、(どこに目があるのかは不明だが)腕を糸のように細くし、気合いを見せる。
「やってやろう、ハニトラ」
声をかけると、ハニトラは嬉しそうにくるりと首元を回った。
さて、次回は手術回ですね!




