216 希望(2)
青い空の下。
イリスはへたりこんでいた。
正しく言えば、へたりこんでいるように見えた、だろうか。
表情は見えず、ただ、座り込んで空を見る姿が、へたりこんでいるように見えたのだ。
声をかけていいのか戸惑う。
イリスにとっても、かなり衝撃的な日だったはずだ。
かといって、無視する気にもなれなかった。
「イリス」
声をかけると、ゆっくりとイリスがこちらを向く。
ユキナリは横に腰掛けた。
ユキナリの首に巻いてあるハニトラが、くるりと首元を一周した。
大丈夫か、なんて言いたくはなかった。大丈夫じゃない事を知っていた。
かける言葉をぐるぐると考えていたはずなのに、いざ本人を目の前にすると、どの言葉も色褪せて見えた。
声をかける事をやめて、景色を眺める。
目の前には、小さな花がたくさん咲いた草原が広がっている。
遠くには、山々が見える。
こんな景色を見ていると、世界は広いんだと感じられた。
「マスターの……」
イリスが、ボソッと、小さな声を出した。
声は小さかったけれど、それはユキナリに話しかけた言葉だった。
「マスターのお墓を……、この町に建てようと思います。もし、許されるなら」
「ああ」
苦しい言葉だった。
この瞬間まで、一緒にいてやろうと覚悟はしたはずだった。
だから、あの洞穴からイリスをここまで連れて来たのだ。
けれど、今となっては、こんな形で死を受け入れなければなくなったイリスを連れ出した事が、本当に正しかったのかわからない。
イリスはこれからどれだけ生きるのだろうか。
そしてこれから何度、あのゴーレムの事を思い出すのだろうか。
「いい場所だな」
「そうでしょう」
風が流れる。
このまま、放っておけるはずもなかった。
「家を建てようと思うんだ」
イリスは、表情の見えない顔で、またゆっくりとこちらを向いた。
「みんなで住まないか?ハニトラと、マルと、トカゲと、……イリスと。みんなで」
唐突に吹いた風に、イリスのマントが広がる。
イリスが空を見上げた。
「みんなで…………。それは……素敵ですね」
イリスの声が、歪んだ。
「本当に……本当に……」
ああ、イリスが泣いている。
「辛くて……辛くて……。マスターの事があったから、もう誰とも一緒に居たくないって思うのに」
イリスが、ぶんぶんと頭を振った。ここまでくると、表情が変わらないなんて、瑣末な事だった。
「もう、ダメなんです」
手で顔を覆う。
「もう、ひとりぼっちは無理なんです」
「ああ……」
「みんなと、一緒に居たい」
絞り出した声は、いっそ悲痛だった。
放っておくことなんて出来ない。
イリスはもちろん、マルだってトカゲだってハニトラだって、もうユキナリにはかけがえのない存在に違いなかった。
ハピエンの空気になってきたでしょうか!




