215 希望(1)
首都へ帰る道すがら、壊れた町を通りすがる。
ここへ来た時よりはまだ落ち着いてはいたが、食事や怪我などで難儀している事がわかった。
「ユキナリさん」
呼び止めたイリスの声は小さく、掠れていた。
振り向くと、イリスのマントが風でなびくのが見えた。
立ち止まったイリスと、苦しそうな声。
イリスの治癒魔法は、この世界では重宝されるものだろう。
ここで使わないわけにはいかないし、イリスとしてもみんなを助けたいのだろう。
「ああ」
話を聞いて、避難所へ。
解放されているのは、風の教会だ。
負傷者は、想像よりも多かった。今、床に転がっているだけで、100人は居そうだ。
イリスの手に、力が入る。
それからイリスは負傷者の治癒に尽力した。言葉はなかった。
きっと、マスターの事を考えているに違いなかった。
「わたくし達も、行きましょう」
「そうだな」
マルの指示に従って、ユキナリが負傷者の手当てをしていく。
「ほら、もっと力を入れてくださいまし!」
「もっとか……?」
足を痛めた男性の足をテーピングしていく。
「物はあってよかったですわね」
ありがたい事に、治療の道具などはゴーレムに潰されていたものの、使えないというほどではなかった。
「そうだな」
包帯や薬草を煎じたものなら、使いたいだけ使えそうだった。
「それにしても、男性しか治療出来ないのは困ったものですわね」
「確かにな」
ゴーレムの集団は、性別など関係なく踏み潰して行った。
負傷している者は、男女など関係ない。
「気を失っている奴なら?」
「やめておいた方がいいですわ。目を覚ました時にショック死でもしたらどうしますの?」
辛辣だった。
……俺自身のせいじゃないとわかっていても泣きそうだ。
「わかった。食事作りの方手伝ってくるよ」
「そうしてくださいませ」
「そこの人間」
マルが声をかけたのは、一人の少年だ。
「ぼ、僕?」
「ですわ。あなた、お元気ですわよね?」
「あ、うん。母さんが怪我をしたから、お医者さんを呼びに来たんだ」
「なるほど。ではわたくしが行きますわ」
「あ、うん」
少年は、怪訝な顔をしていた。
怪訝な顔をしていたけれど、ユキナリが治療をしていたのを見たからか、納得はしたようだ。
そんな風に、治療は進められた。
トカゲが食料を運び、それを焼くなり煮るなりして、お腹を空かせた者達への炊き出しを行っていく。
残念ながら、大きな鍋にも限界があり、少しずつ調理をするしか方法がなかったのだ。
「流石にフライパンで焼くにはちょっと限界があるな。他に方法……。お、っと」
フライパンから肉が飛び出る。
そこで受け止めたのは、ハニトラの腕だった。
うにょ〜〜〜ん。
腕で肉を掴むと、そのまま身体でくるむように消化してしまう。
「え、ハニトラ。お腹が空いてたのか?」
ハニトラが人型だった時に、肉が好きだったのを思い出した。
ふっと笑いが込み上げた。
うにょ〜ん、とハニトラがこちらを向いた。
腕の位置からして、向いたような気がしたのだ。
「もっと食べるか?」
尋ねると、うにょ〜んと身体がお椀型に広がった。
……ここに食事を置けって事か。
「え」
言葉に、反応した?
「ハニトラ。俺の言葉がわかるのか?」
すると、ハニトラは、首に巻きつきくるりと回転した。嬉しそうに。
「そうか。言葉が、通じてるんだな」
胸に、込み上げてくるものがあった。
ユキナリが笑顔を見せると、ハニトラがもう一度回った。
ハニトラも少しずつ回復中という事で。




