214 ハニトラの色(3)
ハニトラは声を発しなかった。
始めは、何の反応すら示さなかった。
ただ、ユキナリの首に巻き付いているのみだった。
けれど、今では、
「ハニトラ」
と呼べば、ぷるん、とした感触が返ってくる。
少しずつ。少しずつだけれど、テーブルにのっぺりしている時と比べて、元気になってきたんじゃないだろうか。
正直、ハニトラの意識があるかはわからない。
けれど、何よりも「ハニトラ」という言葉にだけ反応することが、大切なことのような気がした。
イリスに負担をかけないよう首都戻る為、一行は歩いて首都へと戻った。
休憩の途中、道の脇の草原に座り込む。
ハニトラが、ユキナリの首周りでシュルンと回った。
「かわいいな」
相手に聞こえていないような気がして、素直にそんな言葉を口にした。
触れば、ムニムニとした感触がする。
この温かさに触れていられるなら、別にこのままの姿でも構わないよな。
元気でいてくれるなら。
この状態のままで一緒に住む。
出来なくはないはずだ。
既に、ハニトラの父親という前例がいるのだから。
その時、プルプルっとハニトラが震えた。
「ハニトラ?」
珍しく、ハニトラが、ユキナリの首元から地面に降りていく。
それほど足は速くない。
ふにゅ〜んと形を変えながら、動く。
ハニトラは、地面でモゾモゾと動くと、またこちらへ戻ってくる。
腕のように伸ばした二本の身体の先に持っていたのは、黄色い花びらをつけた小さな花だった。
ユキナリに差し出しているらしい。
「くれるのか?」
尋ねると、またハニトラはぐいっと腕らしき場所をより伸ばす。
その姿が愛らしく、大人しくその花をもらった。
腕を出すと、うにょ〜んとハニトラは腕を登ってきた。
手につまんだ小さな花を見る。
やっぱり、少しずつ変わってるよな。
「ありがとう」
ユキナリは、嬉しくなってハニトラをきゅっと抱きしめた。
それからは、ハニトラの反応は目覚ましく良くなった。
ぽつん。
頭に一滴。
「雨か」
そこでハニトラが、うにうにと動く。
そのままユキナリの頭へ雨よけになってしまった。
ハニトラがユキナリの頭の上へかぶさると、ちょうど肩が隠れる程度だ。
「あ、こら、ハニトラ!お前が濡れてどうするんだよ」
とは言ったものの、ハニトラは表面で色々なものを吸収しているらしく、雨が滴る事はなかった。
身体が冷えたりしないといいが……。
とりあえず様子を見る限り、体温が下がるようなこともない。
やはり、俺の身体に巻き付く事で、何か吸収するものがあるってことなんだろうか。
「ありがとな、ハニトラ」
そう言葉にすると、ハニトラの腕に、なんだか力が入った。
そのきゅっとした力で、抱きしめられたような気がしたんだ。
ユキナリくんとハニトラちゃんのちょっとしたほのぼの、でした。




