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静かにしろよ、ハニー・トラップ!  作者: 大天使ミコエル


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213/230

213 ハニトラの色(2)

 ユキナリがスライムを首に巻いて出てきたので、マルは目を見張った。


「な……なんですの、それ」

 ユキナリは、首に巻いたハニトラに触れ、

「ハニトラだよ」

 と返事をする。


「弱弱……さん?」

 マルは鼻をひくつかせる。

 据わった目でハニトラを見ると、

「お話はしませんのね」

 と、投げ捨てるように言った。

「そんな姿で言葉も発しないなら、わからないじゃありませんの。本当に弱弱さんかどうか」


「けど、俺にはわかるんだ」


 マルがぷいっと横を向く。

「まあ、こんなところにそんな希少種、二体もいないでしょうし、十中八九弱弱さんでしょうけどね」

 なんて言ったマルのその瞳には涙が滲んだ。

 鼻が利くマルが、人違いをすることなどあり得ない事だった。


 トカゲが「キュゥ」と小さく鳴いた。




 気を持ち直し、その建物内部をくまなく探る。

 誰かが生活していた部屋なのか、それとも誰かが生活していたように仕立てられた部屋なのか、判断がつかなかった。

 理由はわからないが、シーツの乱れ一つ取っても、なんだかそういう風に設えられたもののように見えた。


 ユキナリは、本棚の本を一つ手に取り、中を確認する。

 それは、確かに本の装丁をしていたし、中身は文字ばかりだったけれど、文章は的を得ず、なんだか知能不足の不格好なAIで書かれた文章に似ていた。

 その不気味さに、本を取り落とす。

 拾い上げた本は、また本棚に戻しておいた。


 魔女の居場所や魔女の命の扱いについての情報は、何処にもなさそうだった。

 まあ、それもそうだ。

 そんな命にも関わる機密情報を、わざわざ文章にして置いておくメリットはないだろう。


「手がかりはなし、か」

 ユキナリはため息を吐いた。

「ここを離れるしかないか」


「そうですわね。むしろ、ナーナのそばにいたほうがいいかもしれませんわ。魔女は、自分の命を監視しているでしょうから」


「そうだな」


 姑息な手だ。

 決して傷つけられない場所に、自分の命を置いたのだから。ナーナを犠牲にして。

 確かにそこらの宝箱よりもよほど安全だ。

 今の所、あの場所に手を出せるものはいない。


 けれど怖いのは、それに手を出す奴は、きっといるだろう事だ。


 ナーナの中に魔女の命がある事は、大々的に知れ渡ってしまっている。

 もし、魔女を倒したいと思った誰かが、ナーナを殺す事を厭わなかったら?

 ナーナ本人だって、自らその身に刃を突き立てようとしたのだ。


「どうして魔女は……自分の命の場所をあんな風に知らせたんだ?むしろ死にたい、とか……?」


 そこでマルが、複雑な顔をして横を向いた。

「面白がっているのですわ。ナーナを中心に人々が騒ぎ、ナーナが弱っていくのを見るのを」


 聞いた瞬間、腑に落ち、ゾッとする。

 あの魔女ならそうだろう。

 初めて現れた日の事を思い出す。


「首都に、帰るか」


 ユキナリは、そっとハニトラの表面に手を置いた。

 ハニトラは、再会して以来、ユキナリの首元から離れようとはしなかった。

 ほのかな温かさが、ユキナリの心まで温めてくれた。

まるっきり人外になってしまったハニトラもかわいいですよね。

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― 新着の感想 ―
マルチネス「(スライムを見て)これでは弱弱弱弱弱弱種族ではなく、弱弱弱弱弱弱弱種族というべきですわ」 ユキナリ「噛まずに言えるのすごいな!」 マルチネス「……(まんざらでもない表情)」
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