209 ゴーレムを追って(1)
ゴーレムの道は、あり得ないほど真っ直ぐだった。
山があっても。川があっても。
目的の場所へ行く為には、これ以外の道はあり得ないとでも言うように。
その時点で、嫌な予感はした。
けれど、目的地がそれほど首都から近いわけはなく、この国には人や魔物が点在して暮らしていた。
「…………」
ゴーレムまでもう一息というところで、その匂いを感じ、誰もが口を閉ざした。
物が焼ける匂い。肉が焼ける匂い。
ゾッとする。
案の定、ゴーレム達は、人家があっても町があっても、何があってもそのまま突き進んでいるのだ。
どうにも出来なかった者達が、踏み潰され、焼かれ、大変な惨状になっていた。
「こんなの……いけません」
口を開いたのはイリスだった。
ゴーレムの群れを見据えている。
震えているのか……。
「あれでも……」
震える声。泣きそうな声だった。
「あれでもあのゴーレム達は、イリスの弟達なんです。全く違う存在だなんて思えません。会話なんて出来なくても。意識なんて無くても。あれは、イリスの弟達なんです」
「そうだよな……」
そこまでは考えてやれなかったな……。
ユキナリは立ち上がる。
「じゃあ、止めに行くか」
短剣を手に取る。
「はい」
イリスが、足場の速度を速めた。
ゴーレムの集団の前へ出る。
「全てを守る土の精霊モスよ。分厚い壁を作ってくれ」
短剣が青く光る。
「けど、どうしますか?イリスの力でもあの数十は居るゴーレムを壊すのは……」
「すぐに壊す必要はない。今は、足留めだけしておく」
幸い、町らしい町を抜けた先に待っているのは、広い岩場だった。
ゴーレムは真っ直ぐに歩く。
何があっても、きっと迂回はしないだろう。
「あそこに穴をあけよう」
「穴、ですか」
「そうだ。出来るだけ深いやつをな。イリス、出来るか?」
「はい。イリスにやらせてください」
決意の声だ。
ユキナリは、サポートできるように短剣を構えておく。
ドン……!
それはそれは、大きな音だった。
ただ、土も岩も抉られ、奈落に落ちてしまうのではないかと思えるほど大きな穴だった。
「え…………」
魔法を使った勢いでイリスが地面に転がる。
それを助ける為その穴の縁に降り立ったユキナリだったが、あまりに予想外とも言える大きな穴の存在に、言葉をなくしてしまった。
浮かんでいる足場の上では、マルが目を輝かせ、トカゲの口は驚きで四角くなった。
「すごいな……」
そんな大穴を開けたイリス自身も、その穴の大きさに驚いたらしかった。
「はい。イリスも……すごいと思います」
予想通りだった。
あまりに予想通りすぎて、悲しみまでが頭をもたげた。
考える力を持たない、命令された事のみを遂行するよう作られたゴーレム達は、イリスの作った大穴に当たり前のように飲み込まれていった。
飲み込まれたゴーレム達は、その穴から姿を現す事はなかった。
イリスは、悲しみに暮れていた。
弟達を弟達のために、死に追いやらねばならなかった。
全てを見送ったあと、イリスはそっと呟いた。
「……居ませんでしたね」
そう。
居なかったのだ。
魔女らしきあの少女も。
ハニトラを踏み潰したあの巨大なゴーレムも。
さて。ある程度は片付いたでしょうか。ラストへGOGO!




