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静かにしろよ、ハニー・トラップ!  作者: 大天使ミコエル


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200/230

200 絶望の宴(1)

 ユキナリが魔女がいるであろう東を見つめた時、

「ユキナリ……あそこ、変……」

 ハニトラが呟いた。


 それは、何の変哲もない観客席だった。

 騒ぎになり、叫ぶ声と泣き声が溢れる観客席だったけれど、しかしその辺りだけ、しんと静まり返っていた。

 一人の人間が、遠巻きにされている。


 中心に居るのは、ただ一人の少女。

 10歳にも満たないであろう小さな女の子だ。


 笑って……る……?


 その子は笑っていた。

 クスクスと、堪えている笑いが、どうしても漏れてしまうみたいに。

 棒立ちになったまま、楽しいものを観察している時のように、ただ笑っていた。


「思ったよりも簡単だった」


 その子が呟く。

 こんな喧騒の中で。その子の声だけが聞こえるなんてないはずなのに。

 けれど、その子供には、常識だの自然の原理だのというものは通じないらしい。

 ユキナリにはその言葉が、ハッキリと聞こえた。


 それは、空耳でも、聞き間違いでもなかった。

 その証拠に、ユキナリの仲間達は、みんなその子供を見ていた。

 凝視していた。

 息を飲んでその動向を見守っていた。


 その子供が、一歩進む。


 周りの者は誰もが、その子供を避けるように逃げた。


 誰もがその見た目も全く違う者を思い描いた。


 魔女だ。


「くっふふふ。精霊の盾なんて、たぁいしたことないの」


 見た目からは想像できない甘えた声を出す。

 全く違う声のはずなのに、ユキナリにはその声音に聞き覚えがあった。


「だって、私が私じゃなくなればいいだけなんだもの」


 カツカツ、と一歩一歩丁寧に少女が舞台に向かう。


 そこで手を振り上げたのは、サラだった。


「それ以上近寄らないで!」


 ドゥン……!


 魔女らしき少女の前に、大きな火柱が立つ。

 少女の前髪が、チリチリと焦げたが、少女に驚く様子はない。


「魔女……なのね……」


 フッと、魔女が呆れたような目でサラを見た。




「ひとまずナーナだ」

 ユキナリが小さく呟き、一人飛び出す。

 風の力に押され、舞台に飛び込んだ。


 その瞬間、ユキナリの目の端に、大きなものが何体か、市民に襲いかかるのが見えた。


「モス……!盾を!」


 叫び、そちらに飛び込んで行く。

 モスはこの呼び声を聞いてくれたらしい。


 ガン……!


 間一髪のところで、親子らしき二人が潰されるのを食い止めた。


 盾の向こう。

 視線を上げると、そこには人間より一回り大きい、鉄の塊のような、ロボットのような、それでいて……。


 ゴーレム……?


 盾で押し倒し、飛び退る。


 その瞬間、ド……!っと目の前に風の壁が出来た。

 広場を取り囲むように出来た壁は、そのままゴーレムを押し倒す。


 それを皮切りに、そこここで乱闘が見られた。

 ユキナリの仲間達も、戦えない者を守るため散っていった。


「私には、あなたを捕まえる義務があるわ」

 サラが魔女に詰め寄る。


 けれど、魔女の得体の知れない能力に、対抗できる力とは一体なんだろう。

 ゴーレムの大群だけにしても、多勢に無勢だと言えた。


「キャア!!!!」


 サラの後ろで、ナーナの叫ぶ声がした。

「ナーナ!」


 誰もがそちらを向いた。

 あまりの出来事に、向かざるを得なかった。

 ナーナは、ゴーレム達に捕まり、吊り上げられていた。


「ナーナを離して!」


「嫌…………」


 腕を掴まれ、吊り上げられたナーナの口が、ゴーレムの手で無理矢理押し広げられた。


「何をするの!?やめなさい!!」


 サラが駆け寄る。炎の壁はゴーレムを押しやる事は出来るけれど、ナーナの事を思うと炎だけでこれ以上押し進む事も出来なかった。

 炎を消し、サラがゴーレムに飛び込んで行く。

 ユキナリが、ハニトラが、どんどん増えていくゴーレムに立ち向かって行った。


「一足遅かったわねぇ」


 魔女カタライが、またクスクスと笑った。


 ゴーレムの手には、何か、丸いものが握られていた。

 手のひらに乗りそうなサイズのそれは、赤や青に血管が浮き出ており、脈打っていた。


 ユキナリは、目にした途端ゾッとする。

 あれは……、まさか……魔女の…………?


「やめろ!!」


 ゴーレムに阻まれつつも、ナーナに飛び込んで行く。

 けれど、どうしてもナーナまで辿り着く事はできなかった。


「やめて!!ナーナに触らないで!!」


 サラが叫んだ。それはもう、泣き声と言ってよかった。


「ん……っ、ぐ……っ、あぐ…っ…………!」


 ゴーレムは、無理矢理押し開いたナーナの口に、その“魔女の心臓”を押し込む。


「やめて!!!!」


「ご、くん」


 そして、広場は静寂に包まれた。

さて、魔女カタライが再登場です。

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― 新着の感想 ―
邪悪の権化らしい邪悪なふるまいですね!
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