198 魔女退治(2)
「それは……可能性があるわね」
ふっと真剣な瞳を見せたサラの視線の先には、特別着飾ったナーナの姿があった。
今日は祭りの開催前日。
前夜祭と称して、今年の祭りの女王を決めるイベントが行われる。
火の最高司祭の娘であるナーナも、女王の候補者らしい。
司祭の娘らしく、白い清楚なロングドレスに身を包んだナーナは、それでもサラの権限で赤い宝石をふんだんにつけられており、きらびやかでキレイだった。
「見違えたな」
ユキナリが言うと、ピキ、と部屋の所々で空気が凍る。
「……そういうのが好みなの?」
「白さならわたくしも負けませんけれど?」
何故かそこにいたルヴァまで、口を挟む。
「去年の女王はうちの信徒だったよ?」
自慢げなのはサラただ一人。
「そうでしょうそうでしょう?ナーナは世界で一番綺麗なの」
相変わらず、野菊のように微笑む精霊だ。その内に潜む炎を隠して。
「いや、ただキレイだなって感想を……」
しどろもどろになるユキナリの後ろで、イリスの少し面白がる笑い声が聞こえた。
夜、街中は大騒ぎになる。
中央広場に据え付けられた舞台には、4人の女性が並び立つ。
人数に決まりはないが、それぞれの教会ごとに一人ずつ出すのが毎年の習わしらしい。
みんなそれぞれ若い女性ばかりで、煌びやかに着飾っている。
選ばれた女王は、祭りの間、恭しく扱われ、祭りの最後にはパレードの中心に座る事になる。
この国においての、憧れの存在なのだ。
「水の精霊を守護に持つ、アリシャです」
舞台の上で、想像よりも幼い女王候補、アリシャが挨拶をすると、
「ぎゃあああああああああ!!!!」
と耳をつんざく声援でいっぱいになる。
候補者全員に対して、例外なくそんな調子だった。
最後のナーナの挨拶でも。
「火の精霊を守護に持つ、ナーナです」
「ぎゃああああああああ!!!!」
「ナーナ様ー!」
「ナーナ!!!!」
信者が大量に混ざっているのだろう、すごい声だ。
端に並んでいる審査員らしきメンバーは、真剣な顔で、4人を見ている。
そこから、大歓声の中、女王を選ぶ大会は始まった。
基本的には、それぞれ一芸を披露して、審査員の話し合いで決まる。
美しさは元より、どれだけ人目を引くか、どれだけ秀でているかも審査の対象になる。
つまり、全ては審査員の主観に任されているというわけだ。
一人目の水の守護を持つ女の子は、水の力で出した水を使い、水で出来た人形劇の様なものを作り出した。
二人目の風の守護を持つ女性は、長い詩を暗唱した。
三人目の土の守護を持つ女性は、その場で大きな絵を描いてみせた。
四人目であるナーナは歌を歌った。
その歌は、この国において、歴史ある歌で、かつて遠い過去を見たことがある旅人が歌ったと言われる歌だった。
誰もが言葉をなくし、その歌声に聴き入った。
そして、その結果、ナーナが今年の祭りの女王に選ばれたのである。
そして、祭りが始まります。