197 魔女退治(1)
翌日は、全員で図書館に篭った。
個室を準備してもらい、大きなテーブルであちらこちらの資料を積んだ。
「これはどうでしょうか」
「何々?」
イリスが持ってきたのはこの国の歴史を記した本だ。
イリスは、この国に関する知識はないが、勘はいい。
『魔女カタライ様は、一人でこの国を作った。』
魔女側の視点、なのか?
少し嫌悪感はあるが、こういうものにこそ魔女の情報がないとも限らない。
イリスと共に読み進めていく。
『魔女はこの世でお一人である。命も一つ』
「魔女が一人なのは確定みたいだな。命も一つってのはどういう事だ?」
「命が二つある魔女も居るんですかね」
「こちらにも、『命』に関して気になる記述がありますわ」
話を聞いていたマルが、一冊の本を取り出す。
ハニトラも、
「この絵、ちょうど気になってた」
と、一冊の本を取り出した。
『魔女の命、山にあり』
「こっちの本のイラストも、山の上が光っている絵なんだ」
「魔女は、山からこちらの様子を見ている、という意味かと思いましたけれども、そうではない可能性が……あるという事ですの?」
「魔女の大事な物、という可能性はあるかな」
「魔女が何かを大事にしている……可能性……」
マルが、前足の肉球を顎へ押し付ける。
「身体と命が分かれているかもしれない」
と、その言葉をはっきりと言ったのは、ハニトラだった。
「命、そのものが……?」
「ありえますわね」
マルの言葉は真剣だ。
「魔物には、コアが壊れない限り、身体が再生するものもいると聞きますわ。身体からコアが離せる、なんて話は聞きませんけれど」
言葉を切ったマルの続きを、ユキナリが引き継いだ。
「もし……、魔女が切り離せるとしたら……?」
「ええ。そうでなくても、“魔女の大切なもの”、壊す価値はあるかもしれませんわ」
「そうだな……」
信じてもいいものか、考える。
ここで裏付けが取れる資料を探すのが一番いいのだろうが、この祭りを魔女が気にしている事を考えれば、ここで時間を取るのは得策ではない。
「どの山か調べよう」
「うん」
きっと、その山へ行けば、魔女退治の突破口が開ける。
そう信じて。
そんな風に、一行は、魔女の山が東にあるビスタ山だと見当をつけた。
祭りが終われば、きっとそこへ向かう事になるだろう。
「東ならちょうどいいかもしれないな。ゴーレムの目撃情報が、東側だったろ?」
イリスは、何かを決意したような、期待したような顔で言う。
「はい。イリスは、マスターを見つけるまで、諦められないでしょうから」
「見つかるといいな」
この先、何が待ち受けているとしても、見つからなければいいなんて言うことは出来なかった。
きっと、イリスの寿命は長い。
逆に、そのマスターの痕跡は、消えていく一方だろう。
その途方もない時間を、マスターを探すだけの時間にはしてほしくはなかった。
だから、本心だった。
見つかるといいという気持ちは。
「はい」
そのイリスの声が、どれだけ明るさを装った声だったとしても。
魔女の命が本体とは別にあるという設定は、『少女と二千年の悪魔』の魔女キタカゼと同じ設定です。
魔女さんたちは仲良くはないですが、まあ、同族なんでしょうね。