196 祭り(9)
日が暮れる。
広場の楽団の音がやむ。
広くあけられた場所に、人々が出ていく。
ダンスが始まるのだ。
「私達も、行こう」
ハニトラが、ユキナリの手を取る。
「ああ」
二人、向かい合って立った。
軽快な音楽が鳴りだす。
ダンスは、フォークダンス形式だった。
男女別で輪になる。
目の前には、銀色のおかしな癖っ毛の髪をなびかせた、ハニトラがこちらを見ていた。
どこかの民族衣装だという服は、思った以上の率でみんな着ていたけれど、その中でも一番似合っていると断言できる。
手を繋ぐ。
「私、ダンスって初めて!でも、ダンスの仕方は覚えたよ。右足、左足、右足、左足、右足で左側えいえい」
目の前で、この距離とは思えないはしゃぎ方をするハニトラに、「ふっ」と笑ってしまう。
可愛いんだよな。
わかってる。
手は出さない。
手は出せないが、もうこれは、確固たる事実だった。
ハニトラは可愛いんだ。
俺は、どうやらハニトラが可愛く見えるらしいのだ。
こんなロマンチックな夜に、なんでこうもはしゃいでいるのか。
素っ裸で一緒に寝たいというハニトラの感覚をそのまま受け止めれば、そう悪くない感情で思われていると思うのだが。
そう。
せっかくこんな夜なんだから。
「静かにしろよ、ハニー・トラップ」
くるりとした瞳が、こちらをじっと見た。
言葉を止めた唇が、きゅっとすぼまった。
そして、ふわりと笑う。
「ユキナリ」
「ん?」
ダンスの始まりらしく、ぺこりとお辞儀をする。
俺も、周りに合わせてぺこりとお辞儀をした。
「楽しいね、ユキナリ」
「ああ。すごく綺麗な夜だ」
ハニトラが腕の中で、クルクルと回る。
銀髪の長い髪が弧を描く。
スカートが、丸く広がる。
軽快な笛や弦楽器の音楽に乗って、二人、クルクルと回るように踊った。
フォークダンス形式なので、自然と次の相手にバトンタッチする。
お辞儀をした瞬間、相手の女性がヒクヒクと顔を引き攣らせた。作ろうとした笑顔が痛々しい。
おう……。
やっぱり呪いは健在か。ここまでくると申し訳ないな。
会う女性、会う女性、全てがそんな調子だった。
ハニトラはハニトラで、どこぞの酒呑み達にちやほやされながら踊っており、ユキナリとしてもあまりいい気分ではない。
もう一度、ハニトラが目の前に来た時、その手を取ると、ユキナリはぐっとその手を自分の方へ引いた。
そのまま、ハニトラを肩に担ぐ。
「おっ、軽いな」
「ユ、ユキナリ〜〜〜???」
ハニトラが、肩の上でパタパタと動く。
肩の後ろで騒いでいるようだが、どうにもそれほどの力ではない。
「そろそろ行こう!」
「うん〜。でも降ろして〜」
「ははっ、後でな!」
ほのぼのラブな回でした〜!