195 祭り(8)
せっかくなので、首都の中央にある大きな広場まで出かけてみる。
中央広場までは、首都内の乗合馬車に乗り、30分ほどの場所だ。
馬車から見える街も、きっといつもなら冒険者や街の人達でごった返している大きな通りや、商店街、古そうな建物の中まで、今日はお祭り騒ぎになっていた。
「あ、図書館」
途中、大きな図書館の前を通る。
図書館はこの街の一つだそうだから、マル達が向かったのもきっとここだろう。
「手がかり、あるといいな」
「うん」
ハニトラは、珍しく真剣な顔つきをした。
魔女に対しては、ハニトラも思うところがあるらしい。
ブワッと、窓の外が何かで一杯になる。
「!?」
「わぁ……!」
ハニトラが歓声を上げた。
風船だ。
空いっぱいに、風船が舞い上がったのだ。
風の教会の方角から、風船が広がっていく。
光の加減でよく見えないが、おそらく全て白色なのだろう。
一つ一つを見れば、少し角ばっているようだ。紙風船か何かなのだろうか。
「綺麗だな」
その瞬間から、俺達は、お祭り気分だった。
アイスクリームを買って、広場の中の、段になっていて座れる場所に腰を下ろす。
ちょうどそこから見える場所で、小さな人形劇をやっていた。
子供向けなのかと思えばそうとも言えず、モスに恋した人間の少女がテーマの作品らしかった。
そんな人間ではないものに恋をし、追いかける姿がコミカルに描かれており、時々笑い声が起こる。
あのモスがなぁ……。本当の話なんだろうか。
これだけ精霊話が溢れているところを見ると、創作も多くあるような気がしている。
話半分、だ。
隣を見ると、ハニトラが百面相をしながら人形劇を見ていた。
ずっと森で住んでいたハニトラにとっては、人形劇などきっと初めてなのだろう。
泣いたり笑ったり、忙しそうだ。
夕刻となっても、街は静かになるどころか、どんどん活気を帯びてきた。
まだ、1日あるはずだが、もう祭り本番と言ってもいいくらいだ。
「ちょいとお兄さん」
ふっと、出店のおっさんに声を掛けられ、足を止める。
どうやら、服を売っているらしかった。それも、どこかの民族衣装らしく、独特な刺繍が施してある。
「これから、ダンスが始まるんだ。彼女のダンス、見たいだろ?」
これは、ドレスを売りつけられるやつか。
けど……。
チラチラとドレスとハニトラを交互に見る。
確かに、この目をキラキラさせちゃってるハニトラにドレスを着て貰えば、喜ぶだろうし、俺も嬉しいだろうな。
「だな」
簡単に返事をすると、
「じゃあ、これとこれだな」
と、おっさんが男性用の衣装まで引っ張り出してくる。
「俺も?」
「もちろんだ。二人で民族衣装に着替えて本格的に踊った方が、様になるってもんだろ?」
「ああ〜……」
遠慮したいところだが、もうハニトラはノリノリだった。
腕に軽く抱きついてくる。
「ユキナリ!……一緒に着ようよ」
上目遣い。
キラキラの瞳。
ツンとした鼻先。
少し興奮し、赤らんだ頬。
綺麗に整った爪。
少し背伸びになっている爪先。
これに勝てる奴なんて……いないよな。
さて、本格的にデートです!