194 祭り(7)
土の教会御用達、土の宿は、思った以上に大きな宿だった。
一つの部屋はそれほどでもないが、100を超えるんじゃないかと思えるほど。
ユキナリも、この世界にきてこれほど大きな建物は見た事がなかった。
「すごいな」
確かに、高級感のあるお部屋、すごいですわね」
まさに高級感のある部屋。照明が暗いのも、高級感の演出なのだと言われれば納得できた。
「イリスもすごいと思います」
ゴーレムだけに、石のある場所は好きなのだろうか。イリスもいつになく饒舌だ。
「けど、ここで5人で寝るんでしょ?」
「いや、何も5人で寝なくてもいいんじゃないか?」
部屋はどこも同じ作りで、ベッドこそ大きいものの、せいぜいが3人といったところだろう。
「半分ずつに分かれたって」
「あら、確かにそれならトカゲさんが床に寝て、ベッドはユキナリ様とわたくしで、広々使えていいですけれど……。少し、お二人に悪くありませんこと?」
その瞬間、ハニトラがマルの方を、ギュン、と振り向く。
「じゃあ、獣よりも大きな私が、ユキナリと寝なくちゃだねぇ!?」
「あら、おかまいなく。人型の女子会に参加できなくて残念ですけれどっ」
バチバチと火花が散る。
「わかったわかった。むしろ、トカゲと俺で一部屋にするよ。男同士だし」
落ち着かせようと言ってみたが、あまりいい反応はない。
「なんで追い出すの?」
「それじゃ、ユキナリ様がベッド独り占めじゃありませんの」
結局、イリスが、
「イ、イリスはベッドの方が寝心地悪いので、床で寝かせてください」
なんていう言葉で、結局は全員で一つの部屋を使う方向で話はついた。
とはいえ、イリスがベッドで寝にくそうなのは本当の話だ。
イリスは重い。
ベッドに寝転ぶと、どうしても思いっきり沈んでしまう。
そして、ベッドがひずんでしまう。
一度、寝かせてみた事があるが、布団に埋まってしまい、身動きが取れず、つい申し訳なく思ってしまった。
結局、イリスは毛足の長いラグの上で寝ることになったのだった。
「じゃあ、わたくしは、図書館に行ってまいりますわ」
「えっ」
声を上げたのはユキナリだった。
「みんなで行きます?」
「行く必要はあるけど、まず買い物済ませたいんだよな」
この馬車の旅で、野宿用の食事や用具もずいぶん使ってしまった。
「一人になるのはやめて欲しいんだ。イリス、ついていってもらえるか?」
場所は図書館。
ハニトラよりは、知識的なものにも興味を示すイリスの方が適任だろう。
二人が行ってしまうと、ユキナリがベッドを振り返った。
トカゲはすっかりベッドの下を自分のテリトリーだとでも言わんばかりにまったりしてしまっている。
「トカゲ、お前も来ないか?」
声を掛けてみたが、トカゲはそっぽを向くばかりだ。
「部屋の中なら安心か?」
それとも……俺は魔女を怖がりすぎているんだろうか。
入ってこれないはずの首都の中で。
「はぁ」と息を吐く。
「じゃあ、ハニトラ、行くか?」
「うん」
次回はデート、ですね!