193 祭り(6)
「ほら、あれあれ」
「えっと……」
三人組の子供、そのお母さんらしき人、汗拭いてるおじさん、座っている麦わら帽子のおじさん……。
「あ」
麦わら帽子のおじさんに目が行く。そういえば、ここから顔は見えないな。
「あれか?」
「そうそう」
おずおずと行ってみる。
なんとなく、教会の像のイメージや首都の壁のイメージでもっと紳士的な“おじさま”を想像していたが。
ひょこっと、顔が見える位置に移動すると、ぱち、と目が合った。
おじさんが、満面にこやかな笑顔になる。
「ユキナリ!」
あ、確かにモスだな。
「ははっ」
と愛想笑いだけして、俺達はいちごを囲んだ。
パーティーの中には、いちごの実かどうかなんて気にせず、葉っぱを丸ごと食べてしまいそうなヤツが3人いる。
その3人を若干警戒しつつ、モスと対面した。
モスは、麦わら帽子に茶色の作業用つなぎという出で立ちだった。
手ぬぐいを肩にかけ、農家のおじちゃんといった風貌だ。
「いやぁ、来てくれるとはな」
人間で言えば50代くらいだろうか。威勢のいいおじちゃんといった雰囲気のその男は、「ハハハ」と大きな声で笑った。
高貴じゃないとは言わないが、こんな風に土いじりに勤しむ姿は想像していなかった。
さすが土の精霊だけあるんだな。
教会も土って感じだったし。
この調子なら、風の教会が浮遊していたとしても、火の教会の中が防護服を着ないと入れないようなところでもおかしくはないだろう。
「はじめまして」
なんて、礼儀として言っておくのだけれど、一緒にいる雰囲気はどうにも知らない人なんて気は全くしなくて、挨拶は変に宙に浮いた。
そりゃそうだ。
他の精霊の力よりも、ずっと世話になっているのだ。
そんな事を考えていると、
「はじめましてなんて気は、しないけどな」
なんて、ユキナリが思っていた事をモスが笑いながら言う。
「これまで、大変だったろ?」
なんだか、気のいい親戚のおじさんなんて言われたらしっくりくるくらいだ。
「そうなんだ」
こういうのも土の力なんだろうか。
ユキナリの気は緩み、今までの事を思いつくままに話した。
仲間達の事、水竜の鱗で出来た短剣の事、魔女の弱点を探している事……。
「そうだな。魔女については、また全員で作戦を練ろう」
「ああ」
「ですわ。図書館にも行っておきたいところですわ」
「図書館なら、土の区画と火の区画にまたがるところだ。お前達、泊まるところは決まってるのか?」
「まだ決まってないよ」
「じゃあ、うちの宿に泊まるといい。うちの宿は、肉も野菜もうまいぞ?」
「行くー!」
「いいですわね」
「キュイ!」
なんてことで、最終的にはみんなでワイワイと話が盛り上がっていた。
こういう気安さも、きっと、土特有のものなのだろう。
結果、その日は土の教会近くにある宿に泊まる事で話がまとまったのだった。
さて、いよいよお祭り観光ですかね。