192 祭り(5)
なんとなく、気が抜けてしまう。
相手は得体の知れない精霊。
いつだってこちらを見ていて、会いに来たら待ち構えているんじゃないか、なんて思ったんだが、そんな簡単なことではなかったようだ。
「どうしますの?」
聞かれてユキナリは、「う〜ん」と考える素振りをした。
「モスには一度、どうしても会っておきたい。ひとまずここを出て、モスを探してみるか」
「うん」
ハニトラが、嬉しそうに笑う。
「観光がてら、ね」
「そうだな」
まあ、この人混みの中、よく知りもしない誰かを必死で探すのも大変だろう。
縁があれば会える、と信じよう。
まあ、会えなくても明日はまだ祭りは始まっていないので、ルヴァかサラに呼んでもらってもいいと思った。
教会を出ると、教会の周りでは、畑仕事をしている人々が目についた。
りんご畑、にんじん畑、とうもろこし畑。キャベツのようなものも見える。
遠く見えるのは麦畑だ。
クワを振り下ろして働いている集団がいたので、近づいてみる。
「ちょっといいかな」
話しかけた相手は男性だったが、そばにいた女性3人組がチラリとこちらを見たかと思うと、そそくさと集団の一番向こう側まで音も立てず行ってしまった。
……相変わらず、呪いは健在なのだ。
逆に男性は、気さくなもので、
「ああ。今、花壇を作ろうと思っててさ」
と数人が寄ってきた。
「モス、知らないかな」
こんな風に聞いたら、精霊様相手に不敬な、なんて怒られるだろうか、と一瞬頭をよぎったけれど、そんな事もないらしい。
「ああ、モス様なら……」
一人の男が何処かを指さそうとして戸惑う。
「あ〜……、まあその辺にいるんじゃないか?」
もう一人の男が、ふいっと同じ方角を見たので、どうやらモスはさっきまでそこに居たらしい。
「ありがとう、探してみるよ」
手を振って、その場から去った。
それから、そんな事が、四度ほど繰り返された。
思ったより近くに居そうなのだが、思ったより見当たらない。
精霊達の存在感はどれも大きいので、まさかこれほどまでに見つからないとは思っていなかった。
いちご畑が見える土手に腰掛ける。
ユキナリの横にぬるりと寝そべったのはハネツキオオトカゲだった。
「この辺りで見たっていう証言、多いんだけどな」
ユキナリが頬杖を突く。
ユキナリの背中には、ハニトラとマルがぎゅうぎゅうとユキナリの背に寄りかかっている。
「ん?誰をお探しだい?」
すぐ近くに、同じく土手に座っていた兄ちゃんが声を掛けてきた。
「モスが見当たらなくて」
「え?モス様?」
兄ちゃんは、素っ頓狂な声を出した。
「モス様なら、あそこにいるぜ」
指をさす。
「え?」
いちご畑だった。
正確には、数人が雑草取りや水やりで手入れ中のいちごのないいちご畑だ。
「どこ……」
モスといえば、紳士的なおじさんだ。
そんな紳士タイプ、見当たらない、が……?
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