190 祭り(3)
歩道の中心に川が流れる。
魚がピチャリと跳ねる。
そんな道を歩きながら、大きな教会が見えて来た。
海辺にあったような水の装飾。
けれど規模はこちらの方がずっと大きい。
教会の周りに寛ぐ市民がどうにも多いと思ったら、実際にウンダがいる教会の周りで精霊の力にあやかりたい信者なんだとか。
大きな門構えの、あの水の教会と同じような場所だとは思えない大きな教会の前に立つ。
教会内部だけは、儀式の関係で祭りの間は閉ざされてしまう。まだ祭りが始まっていない事が幸いだったと言うべきか。
おずおずと、解放された教会の中に足を踏み込む。
少し場違いなんじゃないかと思い始めたところで、大きな聖堂に出た。
開けた場所だった。
天井は高く、周囲を水が取り巻いている。
明るい日差しの中で落ちてくる水は、煌めいていて、確かに聖域だという気持ちがした。
白い部屋の中には、白い像が立っていた。
見覚えのある女性の像。
そしてその前に実際に立っているのは、見覚えのある女性の姿だ。
「ウンダ!」
振り向いた女性は、見覚えのない服を着ていた。
白いローブは、まさに精霊といった様子で、尊さが滲み出る。
けれど、その優しい微笑みは、確かにあの海辺で見たものと同じものだった。
「みんな、来てくれたのね」
「うん!」
ハニトラが無邪気にウンダの胸に飛び込んで行く。
マルはさっぱりしたものだが、ゆるゆると尻尾が揺れているところを見ると、嬉しくないわけではないらしい。
「新しい子達もいるのね」
「初めまして、イリスといいます」
「キュイ!」
「あなた達がここに居るって事は……、サラ達を助けてくれたのね。ルヴァの声に応じてくれてありがとう。あなた達にとっては、知らない声だったでしょうに」
「声……っていうか、あんな風に面と向かって頼まれたら……」
「…………?」
その瞬間、サッと空気が静かになった。
「ルヴァは……声だけを届けたのではないの?まさか……直接迎えに行ったわけではないわよね?」
その時、言ってはいけない事実だった事に気づき、一行は全員が口を真一文字に結んだ。トカゲも例外ではなく、だ。
けれど、俺達は例外なく、嘘がつけないヤツばかりの集まりだった。流石にバレバレだったらしい。
「あの子ったら……、サラの事になると見境がなくなるんだから……祭りに二人も欠けたらどうするつもりだったのかしら」
言い方は優しいが、俺達にはまるで、水が凍っていく音が聞こえるようだった。
魔物は、精霊の気持ちを受け取りやすいのか、ハニトラとマルがピャッと固まった。
そういえば、サラがこちらを試していた時も、ルヴァが初めて現れた時も、この二人だけ固まっていた気がした。
「そ……そういえば俺達……、モスのところに行かないと……」
笑顔を作ろうとする。
引き攣るな!俺の表情筋!
「…………」
サァッ……とした目で見ていたウンダが、
「…………あら、そう?」
と寂しそうな顔を見せた。
雰囲気が戻るまでの間が、怖い!
「ああ。じゃあ、俺達行くよ」
「ええ……。あ、ルヴァに会ったら、こっちに来るように伝えてちょうだい」
「…………わかった」
実際のところ、魔物は魔物の森に引きこもっている精霊の管轄なので、人間側の四大精霊はちょっと苦手だったりします。