189 祭り(2)
「すごいな……」
一行は感嘆を隠せない。
何がすごいって、人!人!!人!!!
首都は、この世界にこんなに人が居たのかってほど、人で溢れていた。
いや、よく見ると人だけじゃないな。
魔物のようなものもチラホラと見かける。
それもただ居るだけじゃない。
街の広場には屋台が並び、楽隊や演劇、花売りなど祭りらしい景色に囲まれた。
仮装をしていそうな者も多く、あちらでは子供達が冒険者ごっこに興じている。
「え、けど、祭りってまだ先じゃなかったか?」
「ええ。正式に始まるまでに、あと2日あるわ。けどもうみんなお祭り気分みたいね」
「すごいな……」
「けどこれで、宿を探すなんて出来ますの?」
「あら、あなた達ならVIP待遇でいいのよ?うちの管轄の宿に泊まっていきなさいな」
そこで口を挟んだのはルヴァだった。
「ちょっと待てよ。お前がもてなしていいなんて決まってないだろ」
「私から見たら恩人なのよ?私がもてなすのは当たり前でしょ」
「いーや、俺が連れてきたんだから、俺がもてなすべきだ」
外からみればけっこうバチバチな言い争いだった。
これを初めて見るやつは火と風は仲が悪いんだと思うだろうし、実際にお互いを気遣う大乱闘なんて見せられた俺達のような者には茶番にしか見えない何かだ。
「悪いけど、ひとまずウンダとモスに挨拶してくるよ。モスには会ったことないしさ」
「そう?」
二人が不服そうにこちらを見る。
「泊まる先がなかったら、ちゃんとこっちに戻ってくるのよ」
と、サラが相変わらず花のようなにこやかな笑顔で言う。
……あの笑顔もどこまで本当なのやら。
首都ソルは、4つの区画に分かれている。
火の教会、風の教会、水の教会、土の教会をそれぞれ中心とした区画で、中央の教会でそれぞれの精霊が儀式を行う。
それぞれの教会には司祭がおり、サラと一緒に連れ去られたナーナが、その中央教会の司祭の娘だということらしかった。つまり、火の教会下では、一番偉い司祭様の娘ということだ。
教会の周囲には敬虔な信者も多いというから、宗教らしさも保たれているのだろう。
俺達はサラとルヴァと別れ、ウンダの教会へと向かった。
首都のどこを見てもすっかり祭りでしかない。
本格的な祭りが始まっても1週間ほど続いているらしいこの祭りが、すでにこの状態だという事は……一体どのくらいの期間、この調子なのだろう。
驚くべき事に、ハニトラはともかく、マル、イリス、それにハネツキオオトカゲが足元を這っている状態だが、これでも目立たないのだから祭りというのはすごい。
そして、水の教会へ向かえば向かうほど、水の装飾が増えるのだから、さすが水の神殿といった感じだ。
水が噴き出る、噴水そのものの中にいるような広場。
「土の教会周辺は、土が増えるのですかしらね」
なんて、マルが笑った。
いよいよ本格的に首都観光ですね!