188 祭り(1)
「全てを焼き尽くす火の精霊サラ」
「う〜ん」
サラが頬杖をつく。
「そんな呼びかけじゃ、全力を出せないかもしれないわ」
そう言いながら微笑む。
ユキナリが知る限り、サラが精霊の中でそういう事に一番細かい。
ルヴァだって、「いいねいいね」なんて言ってくれたのに。
「じゃあ……、燃え上がる赤い火の精霊サラ」
「もっと、美しく」
「美しく……」
ユキナリは腕組みをして考え込む。
まさか、こんなところでダメ出しされるとは思ってなかったからな……。
「じゃあ……、美しく燃える火の精霊サラ」
「う〜ん」
サラが目を閉じる。
その間、やめてくれ。
「まあ、及第点ってところかしら」
「やった〜!」
ユキナリが小躍りする。
「じゃあ、改めまして」
短剣を構える。
「美しく燃える火の精霊サラ」
「ええ。いいわ」
高貴な笑みだった。
全ての存在の頂点に立つような笑みだ。
「俺達に、魔女を仕留める力を貸してくれ……!」
ブオォ!
「!?」
目の前には、炎があった。
盛大に燃えている。
いや、燃えているのは短剣だ。
短剣の刃が、炎を纏っている。
遠く後ろから、仲間達がはしゃぐ声が聞こえた。
「すっげぇ……」
なんて言いつつ、両手をしっかりと握った。これを落としてしまっては、そこら一体火の海になりそうだった。
「よかったわね、ユキナリ」
サラは、澄まして笑っている。
「それが水竜の鱗で。普通の鋼だったら、炎に負けているところよ」
やっぱり、そのまま炎なんだな……。
「これ……やっぱり燃えてるんだな」
そう呟くと、
「当たり前でしょう?」
とサラが不満顔だ。
そりゃそうか。
土も水も風も、そのまま出て来たもんな。
火も例外じゃないって事だ。
火の精霊の力について、使い勝手の良さを考えながら、また全員である馬車に揺られた。
首都にどんどん近づいていく。
人々の笑い声が、近づいて来る。
遠く、大きな鐘の音や建物が見えた。
「あれが首都……?」
「ええ。あれが、我らの誇り、精霊の要塞。この国の首都ソルよ」
「あれ何!?」
ハニトラの声が響く。
指し示す方角を見てみれば、目の前にオーロラのようなものがそびえていた。
ただ、オーロラと違うのは、その緩やかなキラキラとしたプラズマのようなものが、地面まではっきりと続いているという事。
「なんだ……あれ……」
さながら、緩やかな壁といったところだろうか。
「あれが、俺達の壁だ」
ルヴァが乗り出す。
「モスが作ったっていう、あの?」
「そうだよ。あそこから先には、魔女は足を踏み入れる事はできない」
「祭りは、あの壁を補強する為に精霊4人が儀式をする為のものなの」
「じゃあ、今回も精霊達は儀式を行なっているのですわね?」
「そういうことね」
壁を通り抜ける時は、呆気ないほど何もなかった。
この目で見えなければ、本当に、何かあるとは感知できない。
俺達はその大きな壁を抜けて、首都ソルへ入ったのだった。
さて、いよいよ首都到着です!