186 魔女の行く先(1)
敵を屠り続け、叩き続けても、キリがなかった。
結局、
「トカゲ!」
「キュイー!!!」
トカゲを先頭に、全員で馬車に駆け込む。
「よし!行こう、トカゲ!」
出来るだけ遠くへ。
魔女に見つからないように。
結局、数時間走り続け、たどり着いたのは何処かの小さな小屋だった。
そこは、誰も使っていない捨てられた小屋のようで、少々失敬して中で休ませてもらう。
床は地面がむき出しで、どちらかといえば納屋のような雰囲気だ。けれど、テーブルや椅子、棚がそのまま置いてあるところを見ると、家として使っていたのだろうか。
トカゲも含め、全員で床に輪になる。
ナーナを気遣ったイリスが、ナーナの擦り傷の手当てをしていた。
中心に居たのは、神妙な顔をしたサラだった。
「魔女を見たのは、全部で2回。いつでもあそこに居たわけじゃなくて、何処からか現れて、少し様子を見に来たという雰囲気だったわ」
「……それほど興味がない人質だったのか?」
「目的は?」
「……私達を殺そうとしている事以外には、わからなかった。祭の中心で処刑したい、みたいな話をしていたわね」
「まさか」
思わず顔を上げたのはルヴァだった。
「魔女が首都に入れる事なんてない。特に祭り中は首都に俺達が揃うんだ。モスの防御が弱まるわけ……」
「何か入る手立てを見つけたのかしら」
「わからない」
「魔女は、祭りを楽しみにしているわ」
「遊びに来る、ってわけじゃないだろうな」
沈黙が下りる。
しんと静まり返った小屋の中で、口を開いたのはユキナリだった。
「とにかく、首都に行ってみるか。そこにモスとウンダも居るんだろ?」
「ああ」
「魔女が襲ってくるとも限らないのなら、みんなで一緒に居たほうが安全だ」
「ええ、そうね。どちらにしろ私は、ナーナを首都の家に送り届けないといけないし」
「決まりだな」
ガタガタと馬車は走る。
「狭いですわね」
マルは顔をしかめたまま、ユキナリの左側に陣取っていた。ユキナリとイリスの間に挟まる形だ。
「じゃあもっと後ろに行けば?」
ユキナリの右側にひっついているハニトラが、唇を尖らした。
余りにひっつきすぎている為、ユキナリの右側が温かく柔らかい。……非常に柔らかい。
「これ以上後ろに行けば、燃えそうなんですもの」
確かに、と思う。
後ろは後ろで、色々な思惑が渦巻いているようだった。
「狭いのよ?」
ナーナとルヴァの間に挟まるサラは不服そうだ。
「俺だって屋根の上でもよければ外がいいけどさ、目立つわけにはいかないだろ」
ルヴァが、ぷいっとそっぽを向くわけだが。
なんだかんだ言って、二人で仲良くひっついている事に、なんてツッコめばいいだろうか。
そしてナーナは、そんな二人を観察する事が趣味だとでも言うように、ニヤニヤと二人の成り行きを見ている。
首都まではそう遠くない。
きっと、魔女とも近いうちに出会えるだろう。
さて、いよいよ佳境といったところでしょうか。