185 暗所(4)
とにかく、二人とも無事そうで安心だな。
と、ユキナリがホッとするのはまだ早かったようだ。
バタバタと足音がする。
騒ぎを聞きつけてやってきた魔女の手のものだろう。
ガキン!
ハニトラとマルの刃が、豚の化け物のようなものの牙を受け止めた。
階段は一つ。
後から後から豚の化け物は押し寄せてきているようで、上の方は押し合いへし合いしている。
あれじゃ、階段が詰まるのも時間の問題だ。
豚を全滅させるのが早いか、俺達が窒息死するのが早いか。
ルヴァが、勢いをつける為しゃがむ。
「天井に穴を開けよう」
「イリスが崩落しないように抑えます!」
ユキナリは、短剣で格子を切り付けると、あっさりと鉄格子は切れた。
サラと、ナーナと呼ばれた司祭の娘のそばに駆け寄る。
「ユキナリ」
相変わらず、野菊のように笑う少女だ。
「来てくれたのね」
ちょっと怖いと思っていたが、さっきのルヴァとのやり取りを見れば、そうでもないかと思い直す。
「全てを守る精霊モス、俺達を守ってくれ」
盾を上に向け、傘にするつもりだった。
スッと拡がった盾は、
「!?」
今までよりも驚くほど大きくなっている。
「え……!?」
「力の使い方が上手くなっているみたいね」
サラがにこやかに言う。その笑顔は、以前より、刺々しさが消えている気がした。
これで、二人守れる……!
力を入れると、それを待っていたかのようにルヴァの突風が天井を突き上げた。
ド……ッ!
ゴトゴトゴト……!
でかい石の塊が落ちてくる。
「く……っ!」
力を込め、耐える。
と、助けられている事に気付いたナーナが、初めてユキナリの方を向いた。
ウルウルと潤む瞳。年齢は、ハニトラと同じくらいだろうか。
ゆるゆるとしたウェーブが広がっている。
ゴトン、と最後の石が落ちた。
「行くぞ!」
ルヴァが叫んだと同時に、ユキナリはサラへ手を伸ばす。
「二人とも!」
二人が手を伸ばそうとした瞬間、上から声が落ちてきた。
「サラ!お前はこっち!」
ルヴァの声にサラが少しむっとした顔をした。
「精霊が助けられててどうすんだよ」
「わかってるわよ!ユキナリはナーナを守って!」
サラはそのまま不服そうに、穴の真下まで行くと、火柱を噴き上げた。
その火柱に乗り、上階へ。
そのあまりの派手さにみんなが振り向く。
「派手だなぁ……」
ユキナリも呆然と見上げた。
ユキナリが、イリスの力も借り、全員で床の穴を出たのは、それから数分後の事だ。
その数分の間に倒したらしき豚の丸焼きが何頭も転がっていた。
けれども、まだ地下への階段を降り切れず、そこへ殺到していた豚の化け物達がこちらに向かっていた。
「うわあああ」
思わず、ルヴァの力で蹴散らしてしまう。
「その調子!」
よし、もう一度!
「キューイ!」
嬉しそうに隣に並んだハネツキオオトカゲが、その風にタイミングを合わせ、炎を吐く。
ゴゴゴゴゴゴゴ……!
炎が乗った風の力は、なかなかの威力を発揮した。
そこからはもう、大乱闘だった。
若干、ラブコメに巻き込まれつつの救出作戦です。