184 暗所(3)
床を開ける。
目の前に迫る炎。
熱い。赤い。焦げ臭い。
けれどこれはこの場合、サラが生きてるって事だ。
「サラ!」
ルヴァが名を呼んだ瞬間、風が巻き起こり、地下へ勢いよく吹き込む。
後ろで、ユキナリ達が後ろへ吹き飛ばされた。
燃え上がれ、炎。
サラを守ってくれるように。
バチバチと音を立てて燃え上がる炎の中には、誰も入る事が出来ない。
「ここに入ることは出来ないな……」
けど、このまま放っておいて大丈夫か……?
大丈夫。これはサラの炎だから。
その時だった。
「…………ルヴァ……!」
炎の中で、遠くで、サラが俺を呼ぶ声が聞こえた。
呼んでる。
ルヴァの身体を一際厚い風が取り巻く。
風で防御すれば……数分は持つだろうか。
「今行くよ、サラ」
「ルヴァ……!?」
ユキナリが慌てた声を出す。
「ちょっと俺、見てくるよ。大丈夫」
大丈夫。
階段へ踏み出すと、風に巻かれて炎が避けた。
……炎に巻かれるのも直ぐだな。
覚悟を決めたその瞬間。
スッと、突然波が収まるように、炎が沈んでいく。
「サラ……!」
これはどっちだ?
無事なのか?
「サラ……!」
運ぶ足がもどかしい。
足元を風に助けられながら、なんとか階段を降りていく。
バタバタと、後ろに続く集団の足音がうるさい。
サラの声が聞こえない。
小さな残り火が、地下を照らす。
落ちるように床に転げた。
そこに居たのは、サラだった。
怯えるナーナを後ろにかばって。
サラは、仁王立ちで庇うように手を広げ、こちらを見据えていた。
引き攣って緊張していたサラの顔が、ルヴァを見るなりぐしゃっと歪む。
その瞬間、サラの瞳から、ボロボロと涙がこぼれた。
「…………ルヴァ……」
よかった。
生きてた。
サラ……。
サラは、顔を伏せるとグシュグシュと腕と袖を使って涙を拭く。
真っ赤な鼻の先はそのままに、潤んだ瞳のままで、赤毛を手ではらう。
カンカン、と音をさせながら綺麗なポーズで立ち直すと、ツンとした顔を作って言った。
「ルヴァったら、遅すぎるわ。魔女を追い返すだけなら私一人で十分。一体何しに来たのかしら」
「…………え?」
ユキナリは、そのサラの手のひら返しに驚くと共につい笑ってしまいそうになる。
ルヴァはルヴァで、両足を地に着け、腕組みして鼻をフンと鳴らした。
「どっかの誰かさんがぴーぴー泣いてんのかと思ったから来てやったんだけどな」
半泣きのナーナをよそに、サラはルヴァに詰め寄ってくる。
「あら、あんな女相手に泣いたりするわけないでしょう?私は火の精霊よ?」
ルヴァも、格子越しにサラに上から目線の顔を作ると、風の力で実際にサラよりも上に飛び上がる。
サラよりも少しルヴァの方が背が低いので、それを補う為には必要な事だった。
「こんな牢にあっけなく捕まって、なにが精霊なんだか」
「ナーナを守る為に仕方なくここに居るのよ」
「じゃあ、出て来てみろよ」
「何よチビ」
「何だよバカ女」
見た目年齢もルヴァの方がサラより年下です。