183 暗所(2)
そして魔女は、どこからともなく長く細い銀の棒を持ってきた。
それは、剣よりも槍よりも長く、何よりも細い。
「お祭りの広場で人を集めて、見せ物にするといいと思うの」
魔女は、舐めるようにその串を眺めた。
銀色の串は、ランプの灯りを反射してキラリと光る。
「させないわ」
サラが言うと、魔女が、
「ぷっ」
と吹き出す。
「『させない』と『刺せない』をかけたの〜!?ここでしか使えないジョーク!面白いこと言えるのね」
二人は押し黙ったまま、魔女を見据える。
魔女の綺麗に持ち上がったまつ毛が、パチパチと二人に瞬いた。
「じゃあ二人とも、お祭りに行きましょう」
ボッ……。
その瞬間、魔女のロングドレスの裾に小さな火が灯る。
「きゃあっ」
魔女が悲鳴を上げた。
バシバシ裾を叩いて、火を消す。
そして魔女は、とっくに火は消えているというのに、
「いやぁっ」
と甲高い悲鳴を上げた。
その瞬間。
サラとナーナの目の前に、紫色の巨大な蛇が現れた。頭が幾本もある巨大な蛇だ。
二人の視界から、ランプの灯りが見えなくなる。
「きゃあっ」
サラは魔女のいるはずの場所を見据える。
これは幻?それとも本物?
大きな炎を吹き上がらせ、炎の壁を作った。
ナーナには、誰にも手出しさせない。
ルヴァ。
ルヴァ、何処にいるの。
私一人じゃ魔女には勝てない。
サラは、カン、とひとつ、踵で石の床を蹴った。
炎よ、走って。
小さな炎が、階段を駆け上がる。
ルヴァの風を探して。
ルヴァ……!私はここよ……!
ユキナリ一行が石でできた入り口をくぐると、神殿の中は薄暗かった。
「サラ……?」
ルヴァが呟く。
冷静を装ってはいるが、頭がクラクラする。
早く。
早く見つけ出さないと。
何処にいるんだよ、サラ。
「手分けして地下を探そう」
ユキナリが声を上げると、ルヴァも冷静を取り戻した。
「そうだな」
ルヴァが顔を上げる。
「いや、」
見つけた。
そのまま駆け出す。
「みんな!こっちだ!」
ルヴァが見たのは、小さな赤い炎だった。
けれど、ルヴァがそれを見逃すはずはない。
炎はサラの言葉だ。
素直な言葉ひとつ吐けないあいつの、一番素直なものが炎だった。
だからルヴァは、いつだって、炎の灯りに目を凝らす。炎の音に耳を澄ます。
アイツの声をいつだって、聞き漏らさないように。
「魔女の匂いがする。気をつけろ」
バタバタと入っていった部屋は、何もない空間だった。
「ここなの……?」
みんながキョロキョロする。
けど、俺がサラの炎を見間違えるはずがないんだ。
床に手をつくと、一箇所だけ、風の流れがおかしな場所があった。
「ここだ」
よく見れば、床にはひとつ隙間があった。
その場所の床は蓋になっており、持ち上げることができた。
「サラ、この先にいるのか?」
耐えてくれ。
もう少し。
俺が必ず、お前のところに行くから。
サラとルヴァは仲良しなんですよ。ウンダもこの二人はニコイチだと思っています。