181 作戦会議
空は暗かった。
もう暗い時間だからだとは思うが、それだけが理由とは言い難い暗さだった。
雲があるわけでもないのに、どんよりと重い。
馬車は森の中に停まっていた。
目的地まではもう30分ほど。
監視の目を免れているであろうギリギリのところだ。
近くにある町に行くわけにはいかなかった。
流石に人の多い場所で誰かに目撃されるわけにはいかない。
マントを目深に被って、地図の類を買いに行ったくらいで、あとは馬車の中に立て篭もるようにじっとしている。
トカゲも馬車の中に頭を突っ込ませて、全員で輪になっていた。
中心に置いてあるランタンで、火が揺らめいていた。
ランタンの下には、ここら一体の大きな地図が拡げてある。
「オレ達は今、ここ」
ルヴァが地図の一ヶ所を指差す。
「そして、東の神殿がここだ」
それほど遠くはない森の向こうを指差した。
「神殿とは名ばかりだ。昔は神なんてものも居たのかもしれないけどさ、魔女がこの国を闊歩するようになってからは、神なんてものはこの国には居ないんだ」
ルヴァの声は、嫌悪感を含んでいた。
「その廃神殿に居るのは、確実だ。監視もつけている」
そしてルヴァは、地図の使っていない部分に、見取り図を描き始めた。
「これが、神殿内部だ。俺は入った事があるから、確実だと思う」
「ですわね。神殿の要件を満たしておりますし、神殿はほとんどこの様な造りになっているはずですわ」
マルは、こんな時にも役に立つ。
「窓はここと……ここと……」
と、図面は精密なものになっていく。
「人間を閉じ込めておくなら、どこが怪しい?賢者マルチネス」
「神殿ならば、必ず地下倉庫があるはずですわ。食料倉庫だったり牢だったり、それは神殿毎に違いますが、どの様な造りであれ、まず間違いなく人間ならば一番出てこられない場所でしょう」
「じゃあ、まずそこを目指すのか?」
「ええ、それがいいですわ。上の部屋にはほとんど、窓がありますもの。それも、元々はガラスのはまっていないただの穴のはず。上に居れば、監視の方の目に留まっている可能性が高いでしょう」
「サラに声が届きさえすれば、場所を教えてくれるはずだ」
「裏の木戸から入るのがいいか」
「静かに動かなければいけませんね。イリスが鍵を開けます」
「私が先行する」
「司祭の娘が動けない状態だとまずい。出来るだけ馬車は近くに」
「問題は、魔女が居るかもしれないという事だ」
魔女カタライ。
俺は……アイツを倒す事が、出来るのだろうか。
いや、何が弱点かわからない今は、とにかくなんでもやるしかない。
こうして、乗り込む為の計画が着々と立てられていった。
「まったく、」
ルヴァが不満そうな声を、呻くように絞り出した。
「あのバカ女、オレに迷惑ばっかかけやがって。もうちょっと大人しく出来ないのかよ」
頭を抱えるように項垂れる。
それは、面倒だとか怒りだとかではない、必死さを抱えるような姿だった。
「生きてないと、タダじゃおかないからな」
そんなわけで、次回は、神殿に乗り込むぞ〜!