179 突然のつむじ風(3)
「魔女は、東の神殿に居る」
ルヴァが真っ直ぐに遠くを眺める。
「聞いたな?トカゲ」
「キューイ!」
威勢のいい返事と共に、馬車は速度を上げた。
「頼もしい仲間だな」
ルヴァが感心する。
「こんなもんじゃないけどな」
「ルヴァは、魔女に会ったことがあるのか?」
ゴトゴトと走る馬車の中、ルヴァの目が光る。
「あるよ。随分前な」
"随分"。
果たして、精霊の言う"随分"とはどのくらいの年月の事なのだろう。
精霊の寿命なんてものがあっても、人間とはかなりの違いがありそうだし、時間の感覚も違うだろう。
もしかしたら、人間の年月で年を数えるなんて事もしなさそうだもんな。
「弱点とか、わからないか?」
「弱点?」
ルヴァが眉をひそめた顔で、こちらを向いた。
「俺さ、魔女を説得して呪いを解いてもらいたいんだ。その上で、元の世界に戻してもらいたい」
そう言うと、ルヴァは口をへの字に曲げた。
「なんだそれ」
「必ずしも倒さなくていいんだ。目的は……呪いを解いてもらうことだから」
「やめとけやめとけ」
ルヴァが面倒くさそうに手をプラプラと振る。
「あの魔女とかいうのは、話し合いに応じるタマじゃない。自分の弱みも食い尽くすバケモンだ」
「バケモン……て……」
「途方もない理想論なんて、やめちまえ」
「理想……か」
「お前には、魔女を倒す力がある。その方が簡単だ」
「そんなもの……!」
そっちのほうが途方もないんじゃないかとさえ思えるのに。
未来が見えない。そんな泣きそうな目でルヴァを見る。
ルヴァは、笑っていた。
「…………え?」
「オレがついてるんだ」
ルヴァがそう言うと、突風が吹く。
「風を感じろ」
「風を……?」
すごい自信だな、なんて思いながら。
ユキナリは、短剣を目の前に掲げる。
「全てを突き動かす風の精霊ルヴァ」
そう言っただけだった。
そう言っただけで、短剣の光と共に風で出来た壁が、ユキナリを取り巻いた。
「え……!?」
驚くより他になかった。
これほどの力が発現するなんて、土や水ではなかったからだ。
「うわぁ……!」
「なんですの……!?」
ハニトラやマルの歓声が聞こえた。
「ユキナリ、すごい!」
「その呼び名、いいねぇ!」
ルヴァがユキナリにニカッと笑った。
「力も入るってもんだ」
振り乱れる髪はそのままに、短剣を前へ突き出す。
「風よ、吹け」
そう言っただけだった。
ゴオオオオオオオ……!
大きな風が舞い上がり、前へ飛び出していく。
それは、全てを巻き込む突風だった。
地を抉り、草花を巻き上げ、数百メートルも前へ向かっていく。
巻き込まれれば、切り刻まれそうな勢いだった。そうでなくても、突風にあおられれば、トルネードに吹き上げられて飛んでいく牛のようになってしまうだろう。
「す…………げ……」
予想外のその威力に、そんなことしか口から出す事は出来なかった。
とうとう戦えそうな力を手に入れましたね!