178 突然のつむじ風(2)
花畑の見える場所で、馬車は止まった。
馬車の真ん中で正座をする少年は、真剣な顔で真っ直ぐにユキナリを見た。
「サラが捕まった」
「サラ?」
そこで、ユキナリはふっと思い出す。
ウンダの隣に居た赤毛の女の子の事か。
「助けて欲しいんだ」
「助けて……って……」
少し混乱する。
こんな、初めて会ったヤツを信用していいのか?
仲間に相談しようと、くるりと後ろを振り返ると、ハニトラもマルも気まずそうな笑顔になっている。
この少年の登場があまりにも衝撃的すぎたからだろうか。
不思議に思いながらも、ユキナリは二人に声をかけた。
「この子、信用していいかな」
尋ねると、マルがハッとした声を出した。
「ええ、もちろんですわ」
もちろん?
言い回しが気になる。
ウンダとモスの知り合いみたいだからか?
いや、ちょっと待て。
ある一つの予想が頭をもたげる。
ウンダは、人間と同じ姿をしていた。
あまりにも予想外だったせいで最後まで気付かなかったのだ。あの人がウンダ本人であるという事を。
精霊っていうからには、なんだかフワッとした存在なんじゃないかと思っていたし、実際、モスは光の中で見えるか見えないかな姿で出てきたじゃないか。
まさか、人間と同じように何処かで暮らしていて、人間と同じように会話し、食事をしているとは思わなかったのだ。
けど、実際にウンダに会ってみるとよくわかる。
四大精霊は、全部で4人。おっさんと、おばあさん、それに、女の子と男の子だ。
という事はつまり……?
「その前に……、君の名前を知りたいんだけど」
そう聞くと、少年の顔は激しく歪んだ。
マルとハニトラも一瞬慌てたので、もうほぼ予想は当たっている気がした。
「は!?オレのこと、知らないの?」
「いや、多分知っている人だとは思うんだ……。名前は覚えてないんだけど。君はもしかして……」
そして四大精霊を思い出す。
土のモス。水のウンダ。
あと残っているのは、火と風だけれど、この少年はどちらかといえば……。
「風の精霊」
呼びかけると、少年は精悍な顔つきになる。
「そうだよ。オレは風の精霊ルヴァ」
そう言うと、少年はそのまま、ユキナリの額にキスをした。
「え……?」
驚いたその瞬間、強い光と共に、強い風に包まれる。
これは……、精霊の加護……?
「ユキナリ、お前に風の加護を」
「どうして……。風の修行なんてしてないのに」
「お前は十分だよ。風に乗ってこの世界へ落ちてきた。馬車に乗り、いつだって風に語りかけてくれた。十分な資格だ」
そして、ルヴァはずずいとユキナリに迫ってくる。
「サラを助けてほしい。魔女に捕まった」
その瞬間、ドキリとする。
魔女?
「魔女って……あの、魔女カタライか?」
「そうだ、その魔女に捕まった。祭りの準備中、司祭の娘と一緒に居たところを、二人まとめてだ」
「それ……俺達が何か出来ることなのか?」
「ああ。祭りがあるからウンダとモスは首都から離れられない。そこを狙われたんだ。じゃあ、そうと決まればすぐ行くぞ!」
そしてルヴァは、東の方角を指し示す。
ユキナリは仲間を振り返る。
ハニトラ、マル、イリスの3人は、力強く頷いた。
さて、魔女とは会えるのでしょうか!?