177 突然のつむじ風(1)
首都はここから2日ほど馬車を走らせたところにある。
もう旅には慣れたもので、大きな馬車もあり、頼れる仲間達もいるので、野宿も怖くはない。
食事にも金にも困る事はなくなった。
俺達はただ、流れゆく景色を楽しむだけでいい。
街道を行き過ぎる馬車や、並木道、花畑。
農家の姿や牛を追う少年の姿。
川で水浴びをする機会はなくなった代わりに、大きな銭湯のような施設が増えてきた。
ハニトラやマルはみんな一緒に水浴びをする機会が減って機嫌が悪いようだったが。
途中、踊り子の一行と挨拶を交わし、祭り気分も上がってきた。
その時だった。
ゴォッ……!
強いつむじ風がふき、馬車の中を駆け抜けた。
「うわっ」
髪がバサバサと舞い、落ち着くと青い空が見えた。
みんな、驚いたようで、ハニトラなど目をぱちくりさせている。
マルがブルブルブルッと身体を振るわせた。
「すごい風だな……」
まっすぐ先を見る。
「あれ?」
唐突に出たユキナリの声に、みんなが視線を集めた。
「どうかしましたの?」
「なんか……、静か過ぎないか?」
つい今まで、周りに馬車がいくつか走っていたような気がするのだ。
遠くから、冒険者の声が聞こえていたような……。
「どこ……行ったんだ?」
「あら、気のせいじゃ……」
後ろから聞こえていたマルの声が途切れる。
「マル?」
聞きながら後ろを振り返る。
マルは、正面を向いて固まっている。
「…………マル?」
隣のハニトラを見ると、こちらも青い顔で冷や汗をかいていた。
「え?」
正面に何が……。
思いながら、正面に向き直る。
と、馬車を逆さまに覗く瞳と目が合った。
「うわあああああああああああ!!!!!!!!」
それは、馬車の上から覗いている茶色寄りの金髪を持つ少年だった。
「は???」
ちょっと待て。
いつの間に馬車の上になんて乗ったんだ?この馬車、もう2時間は走りっぱなしなんだが。それも、馬よりは速く走っているはず。2時間この上に居たのか?それとも走っている馬車に飛び乗ったのか?……何の音も立てずに?
「ユキナリ」
「え?」
突然、その少年が俺を呼んだ。
呼ばれた事で、ハッと我に返る。
「なんで、俺の名前……」
「モスとウンダに聞いたんだよ。助けて欲しいんだ、ユキナリ」
「モスとウンダって……」
精霊に聞いたって事か?ウンダはともかく、モスまで俺の話を?
少年は、くるん、と馬車の中に降りてくる。
その姿はやんちゃそうな姿に似合わず、身軽で優雅で、木の床に降り立ったというのに足音ひとつ立たなかった。
まだガタガタと走る馬車の中、少年はすっくと立ち上がった。
見た感じ、中学生くらいだろうか。とはいえ、見た目しっかりとしてそうでそう見えるだけで、背は低く、見ようによっては小学生に見えなくもない小柄な少年だ。
「え……?」
さて、新展開!新キャラの登場からですね!