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176 プロポーズなんて冗談じゃない

 出立の日を告げると、リノウンは、

「そうですか」

 と一言だけ言い、そしてそのすぐ後、ハニトラをお茶に招待した。


 出立する日の、昼過ぎの事だった。


 ユキナリの部屋に入ってきたハニトラは、やはりリノウンの用意した服を身につけ、少しおしゃれしているようだった。

 メイクをしているわけではないが、髪は綺麗に落ち着いている。


「行くのか、リノウンのとこ」


 聞くと、ハニトラは困ったように笑う。

「うん。最後にちゃんと、さよならを言ってこないと」


 その言葉を信じていないわけではないが、つい、思ってしまう。

 このままここに残る、なんて事になったらどうする?


 ユキナリは、ハネツキオオトカゲが怪訝な顔をして見守る中で、部屋を行ったり来たりオロオロと歩いた。

 無粋な真似はしたくないが。

 万が一、あの男がハニトラを無理矢理拉致して……なんてこともあるかもしれないもんな。


 いや。

 でも。

 う〜ん。


 なんて、考えに考えた挙句、結局ユキナリは一人、ハニトラを遠目から見れるガーデンの端まで、“散歩”に出掛けたのだった。


 別に、邪魔がしたいわけじゃない。

 ただ、ほら、下心を持った男は何をしでかすかわからないからちょっとだけ様子見というか。

 まあ、天気がいいから外に散歩に出てきたというか。

 そういうやつだ、うん。


 ガサガサと、クチナシのような低木から顔を出す。

 見え……見え……見え……た……!


「何してますの?」


「うっわああああ」


 突然の声に、思いの外でかい声が出る。

 ぐるりと振り返ると、そこにいたのはマルだった。

 呆れた顔でこちらを見ていた。

 肩でも叩こうと思ったのか、肉球が空中で止まっていた。


 自分の口を抑えながら、気持ちを鎮めていく。


「な、お前かよ」

 今更かもしれないが、出来るだけ小さい声を出す。

「ですわ」

 マルもそれに倣って、小さい声でユキナリの隣に座った。


 低木の陰から改めてハニトラとリノウンを覗く。


「趣味が悪いですわね」

「ぐぬぬ」


 そういうお前はどうなんだ。なんて、隣から興味津々で覗くマルに思うが、黙っておいた。


 二人は静かにお茶を飲んでいる。

 そこそこ離れているので会話は聞こえないんじゃないか、なんて思ったが、

「ハニー・トラップさん、ここはいい庭園でしょう」

「そうだね、とってもキレイ」

 二人の声が大きいので、特に問題は無さそうだ。


「改めて」

 リノウンが、胸ポケットから真っ赤な薔薇を取り出し、捧げ持つ。


「あなたみたいな人は初めて見たんだ。どうか、結婚してください」


 プロポーズ場面を見てしまい、少しドキドキする。

 まさか、受けないよな?そんなの。

 一回デートしただけで結婚するなんて、そんなの……そんなのはダメだろ?


 けど、どうしても断る確信も持ちきれずに、ドキドキしてしまう。


 ハニトラが、にっこりと笑顔になる。


 うわあああああああああああ!!!!!


「ごめんなさい」


 ああああああああああああ……。


「はぁ〜〜〜〜〜…………」


 大きなため息をついて芝生の上に寝転んだ俺を、マルがシラっとした顔で見下ろした。


 そのまま芝生の上で、ひっついてゴロゴロしていた俺達の横を、ハニトラが冷めた目をして通り過ぎたのは、それからほどなくしてのことだった。




「じゃあ、行くか!」

 なんてわざと大きな声を出して、俺達は馬車に乗り込む。


 リノウンが、涙を拭いながら、こちらにハンカチを振ってみせた。

「それでは〜」


「ああ。……ありがとう」


 この兄ちゃん自体は好きではないが、泊まらせてもらった恩があるのも事実だ。


「またこちらへ来た際には、また立ち寄ってくださいね〜」


 正直、もう会うつもりはないが。


 ユキナリは手をぴらぴらっと振るだけで、馬車を走らせた。

 ハニトラが名残惜しそうにしているのが多少気に入らないと思いつつ。

 大きなトカゲが引く馬車は、首都へと走っていくのであった。

一件落着!

このまま本筋駆け抜けていきましょう!

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