170 初デートってやつ(1)
ユキナリは、自室で床に突っ伏した。
「デート……?デートなのか?」
言いながら、ぐるぐるする目で鞄の中を漁り始める。
とはいえ、自分の服なんて買ってないぞ……。
あるものといえば、この世界に来るときに穿いていたパンツ。もしくは作業着。
ハニトラがちゃんとしていた事を思えば、こんなんじゃダメだろ。
上げた顔が鏡に映る。
いつも通りの自分の顔。
……こんなんじゃダメだろ。
かといって、この短時間でできる事もそれほどなかった。
もともと、ファッションの事なんてあまり考えた事がないのだ。
元の世界でだって、服なんてそんなに無くて困らなかったし。
ただ、ハニトラと一緒に外に出ようと思って……。
それだけだ。
本当に、それだけのつもりだったのに……。
結局、いつもの格好のまま、ハニトラと屋敷の外へ出る。
カタカタと走る馬車や、往来する人々。
明るい街並みが目に入る。
それに、隣を歩くハニトラの楽しそうな顔が見えて……。
なんか緊張してきた……。
そもそも、デートって何すればいいんだ?
まあ、この世界に来てから、異性には嫌われてばかりで、それどころじゃなかったからな。でもまあこの場合?元の世界の経験だって活かせるはずだ。うんうん。デート経験……。デートか…………。……ちょっと待て。男と釣りに行ったのはここで活かせる経験になるか?あれだって一応二人ではあったわけだし。異性じゃなかったが、人間である事には変わりないんだし。だとしたら、ここで活かせる可能性だってあるわけで……?
「ユキナリ」
とハニトラの声がかかったので、ユキナリがハッとした。
「お店は3つ向こうの通りにあるんだ。そこから馬車に乗るのが早いんだよ」
と、ハニトラが乗合馬車の乗り場を示す。
「あ、ああ」
列に並ぶと、なんだかこそばゆい感覚に陥る。
ハニトラと、こんな近代的な事するの初めてだもんな。
すぐ鼻の先に、ハニトラの頭がある。
思えば今まで、冒険ばかりだったから。戦闘やら泥だらけになるような事やら。
けど、こいつ、こんな風にも振る舞えるんだな。
まるで普通の女の子のようなハニトラを見て、ふと、自分の世界にハニトラが居ればどんなだっただろう、なんて考える。
こんな髪の色だし、相当目立つだろうな。この世界でだってこんなキラキラした髪色は珍しい。
顔も綺麗だし。
みんなの憧れみたいな感じで、俺なんか近付けなくて。
そんな風に女子高生してるハニトラを想像すると、なんだかおかしくなってくる。
馬車に揺られながら、なんだか心がフワフワしてしまう。
タンッと石畳を叩き、店のそばで降りる。
目の前でハニトラがスキップをして、くるりと一回転すると一つの店の前で立ち止まる。
それは深緑色を主体とした、どちらかといえば上品なお菓子屋だった。
「じゃ、行こう!」
ハニトラがまたくるりと回る。
その笑顔が、つい、なんだかかわいいと思ったんだ。
次回も引き続きデート回!