168 運命の出会いじゃあるまいし(7)
ハニトラはベッドに横になると、ザラザラとキャンディを口に入れた。
「弱弱さん!」
それを見咎めたマルが、驚いて声を上げる。
「それ、お土産だったんじゃありませんの!?」
肉球でベッドの掛け布団をてしてしと叩く。
「そうだけど」
ハニトラが天井を見上げ、また手いっぱいに握りしめたキャンディを口にザラザラと入れて行く。
「ユキナリがどっかいっちゃった……」
「人間はそんな風にキャンディ食べませんのよ?キャンディを吸収して終わらせるなんてもったいない」
「ふぇぇ……」
イリスは、陽の当たる窓辺の床に座り、ほんわかとその情景を見ている。
「そもそもなんであの方と一緒にお出かけなんて行きましたの?」
不満そうなマルに、
「なんでって……」
ハニトラが、起き上がりむーっとした顔を見せた。
今度はパリパリと一つずつキャンディを食べる。
「泊まらせてあげたんだから、お出かけくらい付き合って欲しいって言われて」
それを聞いたマルの顔が、あからさまに歪む。
「アホですわ」
「それに、ユキナリが好きそうなお菓子屋さんも知ってるから、って」
「典型的なアホですわ」
マルの目はすっかり据わってしまっていた。
「昨日今日あったばかりでろくに会話もしていないユキナリ様の好みがわかるわけないじゃありませんの」
「うっ……」
「とはいえ」
マルが一つ息を吐いた。
「その、なんとかっていう男性と一緒に居るのが楽しいのでしたら、それでもよろしいんですのよ?」
「……よろしいって?」
「ここに残っても」
マルの目は真剣だった。
ハニトラが言いにくそうに目を泳がせる。
「それが……」
一度言い淀み、おずおずと言葉にする。
「楽しくなかったの」
マルがじっとハニトラを睨みつける。
「……ユキナリのことばっかり考えちゃって、楽しくなかったの」
イリスが、優しい目でハニトラを見た。
「そんな言葉で伝言もなしに連れ出されるなんて。これでも私達は同じチームのメンバーなんですから。怒られても文句は言えませんのよ」
マルが鼻を「フン」と鳴らした。
なんて言って。
マルは、ベッドの足元の絨毯の上で丸くなり、目を閉じた。
……ユキナリ様が怒っていたのが、チームだからじゃない、なんて、わかっている。
それもあるかもしれないけれど、心の大半は、きっと違う。
ユキナリ様は、あの弱弱だからあんな風に心を揺さぶられていたんだ。
……わたくしじゃ、こうはいきませんわね。
弱弱がここに残ってくれれば、わたくしがユキナリ様の隣にいられる。
わたくしはそれで一向に構わない。
けど。
それなのに。
これほど世話を焼いてしまうとは……。
別に、そんな風にして勝っても嬉しくないですしね。
「本当に、嫌な気分ですわ」
一人、つぶやいた。
女子3人回でした〜。