166 運命の出会いじゃあるまいし(5)
それから数分。
ベッドの柔らかさの確認もしない間に、扉は、
バン!
と開いた。
見えたのは肉球。
案内された部屋から踵を返し、マルがもう戻ってきたのだった。
「ユキナリ様!」
言いながら、マルは俺より先にベッドにダイブする。
その勢いで、ベッドの下でゴロリと転がろうとしていたトカゲが、パチリと目を開ける。
マルは、匂いをつけるためなのか、ひとしきりモゾモゾした後、
「お部屋が近くてよかったですわ」
と上機嫌な声で言った。
一息ついて、
「何か飲むか?」
と、部屋に用意された水やら酒やらジュースやらを眺めていると、すぐにまた扉が開き、イリスとハニトラが入ってくる。
「ユキナリ……!」
ハニトラががばぁっとユキナリに抱きつき、マルに向かって牽制のべーっをする。
「ユキナリ様は、わたくしとお茶を飲むところですのよ?」
「私も飲む」
ハニトラがふんぞり返り、バチバチと火花が飛ぶ。
「仲良くな?」
言ったそばから、ハニトラががばっと服を脱ぎ、マルのいるベッドへダイブした。
「なんでだよっ!!!??」
予想外の出来事につい、ぽよんと揺れる胸をじっと見てしまう。
いやいやいやいや。
「なんで脱ぐんだよ!!??」
「綺麗なお布団だから、脱いだ方がいいかと思った」
「…………いや、着てくれ」
とはいえ、みんなが揃ってよかった。
今日会ったばかりの人間なんて、信用していいはずがなかった。
その日はいつも通り、ベッドの上でみんなで眠った。
一晩泊まらせてもらえば、それで終わると思っていた。
部屋に居なかったのを咎められるんじゃないかと思い、一度それぞれの部屋へと戻る。
ユキナリは一人、庭から見えるサロンの様な部屋へと足を踏み入れた。
朝食は、庭の見えるこの部屋でとることになっていた。
大きな窓いっぱいに見える庭は広く、大きく、まるで高級ホテルか何かの様で、ここが個人の邸宅だということをつい忘れてしまいそうになる。
扉が開き、
「ユキナリ!」
と声がかかった。
「ハニト……」
くるりと振り返ったユキナリの声が、自然と消える。
一瞬、別の誰かなんじゃないかと思いかける。そしてやはり、その髪色と瞳を見て、やはりハニトラなのだと思い直す。
思い直したはいいが、それがハニトラであるという事実にまた混乱した。
爽やかな生地のワンピース。水色という色も爽やかさを演出している。
ヒラヒラと舞う長いスカート。
キッチリと梳かされた髪。
そして、いつも通りの綺麗な笑顔で、まるでどこかの貴族のお嬢様のようだ。
声を出せずにいると、ハニトラが近づいて来て、ユキナリの顔を下から覗き込む。
「えっと……見違えた」
おずおずとそう言うと、ハニトラの表情が嬉しそうに輝く。
けど、ユキナリとしては嬉しいわけではない。
……知らん男からのプレゼントなんて、着てんなよな。
ハニトラちゃん、ドレスアップはしておりますが、メイクはしてなさそうですね。