163 運命の出会いじゃあるまいし(2)
どうすれば……。
少しでも高いところが見えないかと、気を失っている男の背に乗り、ぴょんぴょん飛び跳ねる。
…………無理か。
来た方を戻ってみるか。
「よいしょ」
捕まえた男を引きずろうと腕を持ってはみたが、どうにも動きそうにはない。
どちらかといえば普通の人間よりは身軽だが、筋力が備わっているわけじゃない。
種族としては、実際、それほど強くはないのだ。
仕方なく、倒れている男が見える範囲から出ることなく、場所を把握しに歩く。
誰かいれば聞けるんだけど……。
ひとまず来た道を戻ってみる。
倒れた男が見えるか見えないかというところで曲がり道があったけれど、特に人もいなければ扉も窓もない道だ。
困った顔のまま、ハニトラは倒れた男を踏み潰し、前へ。
まっすぐ前は、何処かで曲がっているらしく、正面遠くに壁が見える。
それよりも途中にある曲がり道の方が、どうやら大きな道のようだった。
すぐそこに、一つ、扉が見える。
看板がぶら下がっているところをみると、どうやら何かの店舗のようだ。
「えっと……」
今まで見たことのない言葉。
普通はあまり大通りにない店なのかもしれない。
でも、この店に出入りする人を掴まえて、道を聞けばいい。
そうすれば大通りの道を教えてもらえるし、ユキナリと再会する事も出来るだろう。
チラチラと倒れている男を確認しつつ、店の扉の様子を窺う。
誰か出てこないだろうか。
不安になるまでもない、それは見張りを始めてから2、3分後の事だった。
その扉から、背の高い人間らしき者が出て来たのだ。
“人間らしき”というのは、すっぽりとマントを被っていてわからなかったという意味。やはり、周囲にバレては困るような店なんだろう、と見当をつけつつ。
「こんにちは」
と、声をかける。
道の向こうへ行こうとしたその誰かの背中がビクッとして、バッと顔がこちらを振り返った。
目が合う。
人間の男だった。
キラキラキラキラ……。
その人は、そんな効果音がしそうな瞳で、こちらを見た。
「フッ……どうしたのかな?お嬢さん」
背が高い人間の男。
歳の頃は、ユキナリと同じか、もう少し上か。
マントの下に収まりきらない金髪が揺れる。
マントなのでよくはわからないが、マント自体の質もよさそうだ。
筋肉は薄い。体力もそれほどありそうにはない。
冒険者ではないだろう。この町の人間か。
「迷子になっちゃって。この町の中心の大通りがどっちかわかる?」
「ああ」
男性の顔が、パッと明るくなる。
「そっちからでも行けるけど、こっちから歩くと目立たない場所に出られるんだ」
「ありがとう」
ハニトラが、そちらに歩いて行こうとすると、
「ちょっと、君」
男性に呼び止められる。
きょとんと振り返ると、男性が笑った。
「ここからも、曲がり道は多いんだ。一緒に行くよ」
ハニトラは、男性の様子を窺う。
「じゃあ、荷物あるんだけど、持ってもらえる?」
「荷物?」
ハニトラが、倒れた男を示す。
「…………」
一瞬黙り込んだ男性が、少し面白いものを見たように笑った。
「ああ、お安い御用だ」
まあ実際のところ、ユキナリくんよりはちょっと歳上です。