162 運命の出会いじゃあるまいし(1)
薄暗い裏通り。
ハニトラは入り組んだ道をしばらく進み、周りを見渡す。
建物の石壁。地面に置いてある樽。2階の窓枠。
いける。
ハニトラは、足を刃に変えると、刃を曲げ、バネにして、高くジャンプした。
2階の窓枠に掴まりもう一度ジャンプ。
あの男達は、2つ先の通りに隠れていた。
このまま屋根を伝って行けば、あいつらの上に出るはず。
そっと屋根の上から覗く。
予想通り、男達の頭が見えた。
覗いていた男が二人。そして、大きな刀を持った男がさらに二人。
もう一人は別の通りか。
殺さないように、何処から来たのか聞かないと。
リーダーっぽい一人は残すか。
まず、一番奥。
ハニトラは、4人の男達の中でも、一番後ろで見張りをしていた男の後ろへと飛び降りる。
「あなた、」
背中から声をかけられた男は、「うおっ」と声を出しかけたけれど、ハニトラが手でその声を押しつぶす。
「なんであの人達を見てるの」
「な……!なんだお前は……!?何処から……!?」
狼狽える男に、刃の先を突きつける。
ピタリと、刃の先が首筋に当たった。
「答えて」
男が青ざめた。
「わ、わかんねぇよ。聞かされてねぇ」
男がそう言った瞬間、ハニトラは思いっきり頭を殴りつける。
男は気を失い、その場に倒れた。
……弱いやつでよかった。
ひとつ、息を吸う。
冷めた目で、後ろを振り返り、残りの3人を見た。
この調子で2人目を潰したところ。
残りの二人が、向かいの裏通りの男と合図を送り合っているのを見てしまう。
向かいの男が見ているのは……私だ。
気付いた瞬間、そこに居た二人がぐるんとこちらを振り返った。
気付かれた。
その勢いで、二人の脚を斬りつける。
腱を切られた二人は呻きながらその場でどっと倒れた。
慌てて通りの向こう側を見る。
丁度、血飛沫の向こう側に、驚愕の顔をした男が後ろを向いて走り去るのが見えた。
「グルルルルルル……!」
そこへズサっと大通りから登場したのはマルだった。
「ここはわたくしが……!」
「獣、遅い!」
言い置いて、ハニトラは逃げた男を追いかける。
マルは、「ふん」と鼻を鳴らし、倒れた男達をその肉球で踏みつけた。
ハニトラが入って行った道は、入り組んだ暗く狭い路地だった。
両側はただひたすらに石壁が続き、隠し扉でもなければ大きな迷路のようだ。
幸いな事に、相手をかろうじて見失わずに済んでいる。
まっすぐな道に入ったところで、ハニトラはジャンプし、その男の頭に足を蹴り込んだ。
ブーツが直撃した男は、その場で前へ倒れる。
気を失ったのを確認して、周りを見回す。
「ん?」
前を見る。
後ろを見る。
上を、見る。
見覚えがあるわけはない。
屋根の上に登る足場もない。
途中の多数あった分かれ道は覚えていない。
ここには、見知らぬ危険な男が転がっているだけだ。
正直、ピンチだった。
「ここ……どこ……?」
マルはその後尋問したはずです。