160 リカの町(3)
冒険者通りは、大通りを抜けたところにあった。
巨大な冒険者ギルドを中心に、酒場、武器屋、冒険者向け宿屋、雑貨屋などが軒を連ねる。
中には、乾物屋のような、冒険者向けなのかどうか怪しい店や、何を売っているのか不明な店も多かった。
「せっかくだから、あのデカい店に入ろうぜ」
ユキナリが意気揚々と言う。
「店がデカいから美味しいんじゃないかなんて思ってるんじゃないですわよね?」
マルが相変わらずツンとした鼻をしている。
「ぐぬぬ」
まあ、その通りだ。
だって、大盛況な店の方が美味しい可能性がありそうじゃないか。
そんな言葉を飲み込んで、どうにかこうにか言い訳をする。
「……人が多い方が色々情報拾えそうじゃないか」
そんな事を言いながら、ズンズンとデカい店に入って行く。
デカい店の中は、俺達の事など気にする暇もない程の大盛況だった。
いつも、魔物だなんだと注目を浴びてしまうので、これはこれで良かったと言えるだろう。
席はほとんど空いておらず、通された所は店のど真ん中のテーブル。大柄な人間でも8人は座れそうな大きなテーブルだ。
周りも大きなテーブルに囲まれていて、ざわざわと多くの声が聞こえる。
とりあえず注文した飲み物で乾杯しつつ、肉をかじる。
ハニトラとマルが肉好きなせいで、どこに行っても基本は肉だ。
一番近くのテーブルは、見たところ全員魔物という珍しいテーブルだった。自然とそちらに耳が向く。
「きな臭いよな」
と、唐突に、それこそきな臭いセリフが聞こえて来た。
なんだなんだ?
「こっちの種族はなんともないんだろ?」
「ああ。あっちの種族だけだ」
あっちに……、こっち……?
「だからって、安心できる状況じゃないだろ」
「ああ。最近は町に人も多い。魔物もな。今、ゴーレムなんかで争うわけにはいかないだろ。もしかしたら……アレの仕業かもしれんのだから」
ユキナリはそこで、ビクリとした。
ゴーレム……?確かにそう言ったのか?
イリスの方を見ると、表情は読めないものの、やはりビクリと少しだけ飛び上がったのが見えた。
やっぱり……ゴーレムって言ったんだよな。
すぐに話を聞かなければ……!
ガタッ、とユキナリは立ち上がる。
「今、ゴーレムって言わなかったか?」
「ああ」
魔物達がこちらを向いた。
一瞬、警戒されたようだが、ハニトラとマルの顔を見てその警戒は解かれたらしい。
それぞれ、なんだかオークのようなドワーフのような雰囲気を伴う、力自慢でも始めそうな魔物達だ。
ユキナリは、一人、そちらのテーブルに寄って行き、頭を突き合わせた。
なんだかんだ、この冒険者生活も長くなってきた。相変わらず女性と話す事はほとんどないが、男の冒険者と話す事は段々と慣れてきていた。
「それがな、ゴーレムが夜中歩いていたって目撃情報があるんだ。なんでも、国の東側だそうだ」
「どの辺りなんだ?」
「それが、どんどんこっちに近づいて来ているらしい」
あまりにユキナリが興味津々な顔をするので、魔物は少し呆れた顔をした。
「近づくのはお勧めしないぜ?なんせ……、」
そこで、一瞬の間が空いた。言い淀み、そして魔物が耳打ちしてくる。
「なんせ、魔女側の種族がそばにいたって言うんだからな」
さて、ゴーレムの気配も魔女の気配もしてまいりました。