16 武器がないと始まらない(4)
目の前で、ガキンガキンと刃が触れ合う。
本当に、ここは異世界なんだな。
そんな事で、実感して、ぼんやりとしているところに、声がかけられた。
「おう。ここに何の用だ?」
片耳が潰れた、大柄な男だ。いかにも、剣やら斧やら鉈やら、振り回していそうな。
「こんにちは」
圧倒されていると、男の目は、俺の腰にぶら下がっている短剣へと注がれている事に気づく。
同じく腰にぶら下げている試験用の巻物を出すと、
「紹介で……っ」
と慌てて言った。
男は無言でその巻物を受け取ると、じっくり眺めた末、
「なるほどなぁ」
と呟く。
「じゃあ、こっちだ」
言葉の少ない男は、修練場の奥を指し示す。
「はい……。よろしくお願いします」
武器の……道場かなんかなんだろうか。
言いなりになったまま男についていくと、その修練場の中でもガレージのようにへこんだ一画は、薄暗い、怪しげな匂いのする場所だった。
大きなテーブルを取り囲む壁には、ずらりと怪しげな物がぶら下げられていた。
まるで生き物のような……ドロドロとした……。
まさかこれ……。
「ここに、魔物の切れ端ならあるから、使っていい」
「え……」
切れ端……。
そしてその男が、ドン!とテーブルの上に大きな塊を置いた。
置いた衝撃で、
「ギュ、ギュアアアアアアア」
と置いたものが叫ぶ。
嘘だろ、生きてんじゃねぇかよぉ……。
若干半泣きになりながら、
「これは……?」
と震える声で辛うじて尋ねる。
「マンドラゴラだよ。あまり美味くはない」
食うの?これを……?
とはいえ、試験項目はこなさなくては。
マンドラゴラの項目は、『足を切り落とす』だ。
足?
目の前の茶色の物体は、人参のような形をしている。
足ってどこ……。
と、なんとなくゴロリと転がすと、マンドラゴラと目が合った。
「ひ……っ……」
一度息を吸い、
「ひゃあああああああああああ!!」
と、思わず大声を上げる。
その勢いで、目の前のマンドラゴラも、
「ギュアア、ギュアアアア」
と、声を上げる。
「うるせえよ」
男が半笑いのツッコミを入れた。
そ、そうだ、足。
顔から辿ってよくよく見れば、確かに手やら足やららしき部分がある。
これを切り落とせば……。
短剣を鞘から抜き、振り上げた。
「ああ〜ダメダメ」
男に声をかけられる。
「腰が入ってない」
「え?」
「ここ!ここ!」
と言われつつ、足やら腰やらを叩かれる。
「いってえよ!おい!おっさん!」
ぎゃあぎゃあ言いながらも、その通りにすると、上手く力が入る事に気がつく。
マンドラゴラの足は、木を切るよりも容易くスッパリと切れた。
「はぁ……」
ため息を吐く。
このおっさんの言う事聞く事が、最短ルートって事かよ。
そして、そのマンドラゴラ自体が、まるで事切れたようにしんとした。
え???
まさか俺、殺っちゃった???え???
変な汗が出るけれど、ここで立ち止まるわけにもいかなかった。
それからも、おっさんが何かを持ってきては、ダメ出しをされながらそれを切る、そんな作業が続いた。
次回で短剣ゲットになると思います!