158 リカの町(1)
「次の目的地は、首都にしようと思う」
「うん」
とみんなが頷く。
早朝、火を囲んで、次の相談をした。
早朝の森は、気分がいい。
うっすらとかかっている霧も、雰囲気を演出するのにちょうどいい。
基本的に周りに誰も居ない魔物の森の中は、相談をするのにも最適だ。
「目的は、魔女の情報を得る事。そして、ゴーレムの情報を得る事だ」
「はい」
と慎重な返事をしたのはイリスだ。
イリスのマスターはきっと……もう生きてはいないから、どういう答えになるかはわからないが……。
どんな結果であろうと、イリスと共に受け止め、イリスをみんなで支えられればいいと思う。
なんて。少しの不安を覚えつつ。
俺達は、来た道を戻り、魔物の森を抜ける。
「オークのあの子供に会う事がなくてホッとしたよ」
「あの子だって、最終的にはイリス達を助けてくれたじゃないですか」
「それはそうだが。もうあのおままごとは正直したくないよ」
ユキナリが苦笑する。
「私も、おままごとはもういいや」
ハニトラが笑うので、マルが口を挟んだ。
「あら、ユキナリ様と夫婦設定ならいいとか言うんじゃありませんの?」
ハニトラが口をへの字に曲げる。
「私は、本当に結婚する方がいいもん」
そんなハニトラに、マルが冷めた視線を向けた。
そんな空気を払拭するため、ユキナリはいつもより少し大きな声をあげた。
「ここからは、馬車で突っ走ろう」
それに呼応して、ハネツキオオトカゲが威勢のいい声をあげる。
「キュ〜イ!」
「ああ、もうすぐトレントの居る場所ですわね」
マルがウンザリする気持ちを隠さずに言う。
さすがに、あれだけ振り回されれば嫌にもなるだろう。
「トレントに簡単に挨拶して、問題がありそうならそのまま振り切る」
「うん!」
ハニトラの碧い目がキラリと輝く。
ゴトゴトと、馬車は走った。
目の前に、例のトレントが立っているのが見えた。相変わらず、何か液体を撒き散らしている。
悪い奴ではなさそうなんだが、…‥なさそうなんだが……。
ユキナリは苦笑しながら、ブシュブシュと噴き出す液体を眺める。
「トレント!」
「戻ったのか」
「ああ。故郷まで辿り着けたよ」
「それはよかった」
トレントは落ち着いていた。
「次は、どこへ向かう」
「首都へ向かおうと思う」
「ああ。リカの町を通って行けば、祭には十分間に合う」
祭。
ここのところ、至る所で耳にする、首都の祭というやつか。
「祭ってのは、どういうものなんだ?」
そういえば、首都で祭がある、以上の情報はあまり聞いた事がなかった。
「祭は、首都で行われる年に一度の精霊感謝祭だ。毎年、女王を一人決め、大掛かりに行われる。その祭の為に1年がかりで働く職種もあるくらいだ」
「それは……すごそうだな」
つまり、それだけの人混みという事。
正直、これだけの人外連れだと素直に喜ぶだけではないわけだが。
「楽しそう!」
ハニトラは問題なさそうだ。
「まあ、人が多い方が情報も入手しやすいというものですわ」
マルは、こういう場面では腹が据わる。
「お祭り……ですか」
イリスの声にも期待が混じる。
しょうがないな。
「じゃあ、ひとまず、リカの町ってところに行きますか」
馬車は気合いの入ったハネツキオオトカゲに引かれ、晴れた空の下をゴトゴトと走る。
華やかな祭に誘われるように。
というわけで、新展開ですね。