157 チュチェスの村(3)
小さな花の森を、5人は歩いた。
ハニトラが故郷で、何を話したのか、もしくは話さなかったのかはわからないながらも、泣きながら抱きついてきたハニトラには、みんなが気付いていた。
服を着せている間に、涙は乾いたようだったけれど。
みんながそれに気付いたものだから、帰り道はみんながみんな饒舌だった。
くだらない話をした。
「柔らかそうな花だよな」
なんてユキナリが言えば、
「食べてはいけませんのよ?」
なんて、マルまでもが言い出した。
戻る道でも、同じところでキャンプを張った。
焼いた干し肉を咥えながら、楽しく会話しているところで。
ふと、ハニトラは自分の居た村の方を眺める事があった。
泣きそうな、けれど迷いのない目で。
光が溢れる森は、夜も明るかった。
上を見上げれば、木々のざわめきの中に小さな瞬きが数え切れないほど見えた。
「ん……」
馬車の中で目を覚ました俺は、何か物足りなさを感じていた。
いつだって両側にひっついている二人が、今日は一人になっていたからだ。
「ハニトラ……?」
小さく呟く。周りを見渡す。
星明かりで、馬車の中を見渡すのもそれほど苦ではない。
左側にはマルがひっついている。
その向こう側には、石の塊がある。イリスだ。
外ではトカゲが寝ているはずだった。
ハニトラの姿だけが見えなかった。
マルの突っ張った脚をどかし、のそのそと外へ出る。
真夜中の森は、普通は怖いものなんだろうが……。
辺りは、薄明かりでほのかに明るく、その光に反射して、木々は輝くようだった。
案の定、馬車に引っ付くようにして、トカゲがスヤスヤと寝息を立てている。
見回すと、ハニトラは簡単に見つかった。
少し離れたところに居るが、あの銀の髪は、ほのかな星明かりの下でさえもキラキラと輝いていた。
「ハニトラ」
声をかけると、ハニトラはぴょこんと跳ねるようにこちらを振り向いた。
ぼんやり見ていた先は、やっぱり故郷の方角、か。
隣に座る。
「帰りたいわけじゃないんだ」
ハニトラが、苦笑する。
「ただ、思ったより呆気なかったって」
「ああ」
きっと、思い通りにはいかなかったんだろう。
けれど元気がないわけではなさそうで、少し安心した。
「ハニトラ」
改めて、ハニトラの方を向くと、ハニトラもそれにつられてこちらを向いた。
「なあに?」
ハニトラは、やはり少し、泣きそうな目をしていた。
「俺と一緒に、来てくれるだろ?」
手を差し出す。
ハニトラはその手を見て、ハッとした嬉しそうな顔をした。
潤んだ瞳に光が宿る。
「もちろん……!」
ハニトラはユキナリの手を取ると同時に、そのまま腕に抱きついた。
改めて旅に出ましょうか!