155 チュチェスの村(1)
森の中を歩いていた。
相変わらず、明るく、神々しくて、スッキリとした空気を帯びた森の中を。
そしてそんな中で、突然マルが、
「そろそろですわ」
と言ったのだ。
「そろそろって……、何が?」
その言葉に、マルがドヤ顔を返す。
「もちろん、弱弱さんの故郷の事ですわ」
「え」
慌てて周りを見渡す。
しかし、どの方角を見ても、あるのはただ何処までも続く森ばかりだ。
みんなで歩いていなくては、方角さえ見失っていただろう。
「どこに……」
と、言いかけたところで、困った顔のハニトラが一歩前に出た。
「ここ、知ってる場所」
「そう……なのか」
「そう。この辺の森は、みんなそう。ここが、チュチェスの村。異種族の前では、姿を現したがらないから、見えないけど」
周りを見渡す。
何も、気配はない。
けれど、もしかしたら、この木々の陰に、ハニトラと同じ種族の魔物が隠れているかもしれないのか。
「私、ひとりでちょっと話をしてくるよ」
「え……」
ハニトラが、俺の目を見上げる。ハニトラはもう、決心した顔をしていた。
「大丈夫、なのか?」
「うん。離れたところで、待ってて」
そう言うと、ハニトラは笑顔を見せる。
そしてそのまま、スカートに手をかけると、服をガバっと脱ぎ出した。
「は!?」
真っ白に伸びた足。
いかにも運動できそうな引き締まった腹。
ぽよん。
そして、手にうまく収まりそうな形のいい胸。
それらがすっかり露わになる。
「うあああああああああ」
突然の素っ裸に真っ赤になりながら、ユキナリは必死で目を逸らした。
「ああああ…………あ?」
気付くと、周りの3人はまったく驚きの欠片も見せてはいなかった。
まあ、こいつら、誰も服なんて着てないもんな。
ついチラチラと胸の辺りを見ながらも、なんとかハニトラと向かい合おうとする。
「な、ななななななん、なん……っで、裸……っ」
「みんな、服なんて着てないから。私も、いつもの自分で行く」
……いつもの自分。
ああ、いや確かに森に住む魔物ならそれが“いつも”か。
ハニトラは、脱いだ服を大事そうにぎゅっと抱きしめる。
きっと怖いくせに、強気で笑う笑顔だ。
ハニトラは、その服がまるでお守りだとでもいうように、それを抱えたまま、
「行ってきます」
と言葉にした。
小さいけれど、はっきりとした言葉。
「ああ、行ってこい」
俺も、ハニトラに笑いかけた。
この応援が届くように。
ちゃんと、ハニトラが、ここに戻って来れるように。
「…………待ってる」
「うん!」
くるりと後ろを向いたハニトラを見送る。
これで、目のやり場に困る事はなくなったか……。
と思った矢先。
「……ん?」
長い少し変わった髪質の銀色の髪の先に、真っ白な尻が見え隠れする。
「………………」
つい、じっと見ていると、
「……戻って来ないと、わたくしがユキナリ様と一緒に行きますからね!」
とマルが声を上げた。
うおっ。
変な冷や汗を流しつつ、ユキナリはハニトラを見送ったのだった。
とうとう到着ですね!ハニトラのママは無事でいるでしょうか?