154 森の中にて
「歩きだと意外と進まないな」
森の中は、前も後ろも木ばかりだった。
ただ、森の中は明るく、ガタガタしているがそれなりの道になってはいるので、あまり方向で困る事はない。
それでも、進む道がどこまでも木ばかりだと、不安にもなるというものだ。
「まあ、弱弱さんの故郷なら、もうそれほど遠くもありませんわ」
「そうなのか」
ユキナリは、遠くを見る。
どこまでも光り、どこまでも美しく伸びる木々と、どこまでも小さな花畑が広がる。
見れば見るほど神々しく、別世界のようだった。
掴めそうな光。
足元を照らす木漏れ日。
スッキリとした空気。
ゴトゴトと、馬車が進む音が響く。
他に聞こえるのは時々聞こえる鳥や動物の鳴き声だ。
歩いていると、少し開けた場所へ辿り着く。
その場所だけ木がなく、パッと光が入っているので、それはそれで神々しいと感じてしまう場所だった。
ユキナリはくるりと後ろを向いた。
それほど疲れているようにも見えないメンバーだ。そもそも、人間離れしたメンバーばかりで、誰よりも体力がないのはユキナリ自身だと言えた。
とはいえ、疲れる前に休むのも大切なのだ。
ピンチの時に疲れていては仕方がないからな。
また、オークにさらわれるなんていうハプニングが無いとも限らないのだ。
「休んでいくか」
声をかけると、
「キューイ!」
「うん」
「いいですわね」
「はい」
なんていう、てんでばらばらな返事が一斉に来る。気が合うんだか合わないんだか。
結局俺達は、マルの、
「弱弱さんの故郷へは、朝到着した方がいいんじゃありませんの?」
なんていう言葉で、そこでキャンプを張ることになった。
馬車に毛布を敷く。
火を起こし、ポットを出す。
スープの素でスープを作りながら、調味料を振った肉を焼く。
馬車を買った事で、キャンプ用品も増えていた。
もう、キャンプ用品を集める趣味のようなものだった。
火が爆ぜる音がする。
何処かに水でも湧いているのか、小さく水がこぼれる音がまじる。
「いいところだな」
そう言うと、ハニトラが少し複雑そうな顔でカップを握り、小さく、
「うん」
と頷いた。
生い立ちのせいもあって、複雑な気分なのかもしれない。
そしてハニトラもそうだが、マルまでもが下を向く。
……そういや、マルももう家はないって言っていたもんな。
かけたい言葉を、どう言葉にしていいのかわからずに、ユキナリはただ、火の爆ぜる音を聞いた。
次第に夕闇が訪れ、夜が訪れた。
ユキナリは、花の上に転がり、空を見上げる。
息を大きく吸うと、何か空気以上に澄んだ何かが、身体の中に取り込まれる気がした。
ちょこんと隣に座ったのは、ハニトラだ。
「……眠れないのか?」
「うん」
ハニトラは、地面に咲く小さな花を指で撫でる。
「ここは私が知っている場所と同じ花が咲いてる」
ハニトラは、ふっと視線を落とした。
「もし、みんなが無事じゃなかったら?私と同じように、誰かに襲われていたら?私は……どんな感情を持てばいい?」
「大丈夫だよ」
ハニトラの手を、ぎゅっと握った。小さな手。一人じゃないと、知って欲しかった。
「どんな感情でも、お前はお前だから」
安心しても、悲しんでも、喜んでも。そんな気持ち一つで、どうにかなるとも思えなかった。
ハニトラが、ハッとして握られた手を見た。
泣きそうな笑顔を見せる。
「うん。そうだね」
次回は、やっとハニトラの故郷へ辿り着きそうですね!