表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
153/230

153 森の道(7)

 階段を降りても、そこは暗い部屋だった。

 扉がいくつかあるところを見れば、寝室や居間は別に部屋があるのだろう。


 台所らしきところで、パチパチと爆ぜるかまどの火を見る。

 まさか投げ込まれたりしないだろうな……。


 短剣に手をかけ、どこなら切り付けられるだろうかと算段をつける。


 扉を開けて、オークの子供は外に出た。


 空は晴れていて、星が瞬く夜だった。


 入ってきた時と同じように、子供は庭の真ん中に立つ。

 持ってきた網のバッグに俺達をごっちゃりと入れた。


「いててててて」

 とりあえず頭を起こそうと、もがきながらも無意識に前に手を突く。


 むにん。


「…………」


 ハニトラと目が合う。

 大人しく手を引っ込めて、

「これからどうなるんだ……」

 なんて、とりあえず当たり障りのない台詞を吐いておいた。


 そこは、近くの木々が立ち込める場所だった。


 ゴロンゴロンゴロン、と5人と馬車は、袋から出され、草むらの上に転がされる。


「う…………」

 みんなほどほどのダメージを負ったのか、それぞれゆっくりと起き上がった。


 警戒を怠らず、オークの子供を見上げる。

 ユキナリの倍ほどもある身長。その重量は何倍か。


 子供は、じっとこちらを見ていた。


 ユキナリは、自分を落ち着かせるため、ゆっくりと息を吐く。

 いつでも飛び出せるよう、短剣に手をかける。


 先に口を開いたのは、オークの子供の方だった。


「ばいばい」


「…………え」


 子供が、おずおずと、小さくこちらに手を振った。


「…………逃がして、くれるのか?」


「あ、ありがとうございます」

 イリスが、子供を見上げる。


「楽しかった……」

 ……わけではないが。

「ありがとう」

 礼を言って、5人は様子を見ながら、オークの子供から徐々に離れていく。


 わけ知り顔の子供は、若干ドヤ顔になりつつも、また、

「ばいばい」

 とこちらに手を振ってくれた。


「ああ。じゃあな」

 こちらもそれぞれ手を振ると、一目散に走り出した。

 村はずれの、森の木の陰へ。


「はぁ……」


 周りを見回す。

 みんな、無事のようだ。


「……俺達が生き物だって、ちゃんと理解してたんだな」

「そうみたいですね」

 イリスが笑う。

「わかっててあんなおままごとさせていたのでしたら、重罪でしてよ?」

「獣はゴロゴロ似合ってた」

「なにか言いまして?」


 みんな元気そうだ。

「お前も大丈夫だな?」

 すぐそばに居たトカゲの頭を撫でてやる。

「キュ〜イ!」

 久しぶりに、元気な返事を聞けた。


 馬車をぐるぐると見回す。

「見たところ、問題はなさそうだな」

「車輪もオーケーですわ。ヒビなど入っているようにもみえませんし」

「中も大丈夫」

「荷物も、食料の箱をひとつ落としてしまったようですが、それ以外に損害はありません」


 一息ついても大丈夫そうなところで、改めてお互いに顔を見合わせる。

「ふっ」

 とつい、笑いが漏れてしまう。

 そしてそれはユキナリだけではなく、他のメンバーも同じ事だった。


「イリスは、思ったよりも楽しかったです」

「わたくしは、毛がボロボロになるかと思いましたわ」

 ツーンとして言うマルの毛を、イリスがなでつけてやる。

「私も、楽しかった」

「キューイ!」


「じゃ、そろそろ行くか」

「ええ。ここからなら、見つかる事なく村を通り抜けられると思いますわ」


 そんな風に一行は、オークの村を後にした。


「帰りもここ、通るのか?」

「……そうなりますわね」

ちなみに、オークの子供は男の子です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
よく分からないままにドヤ顔の少年に解放される一行 一番わからない顔をしてるのはトカゲでしょうね。 『なんで僕がパパなの、まだ脱皮1回しかしてないのに』 って。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ