152 森の道(6)
「『さあ、みんな。ごはんですよ』」
人形遊びは続いていた。
全員で、デーブルにつかせられる。
オークの子供は、俺を掴んで”家族“に話しかけさせる。
「『きょうのごはんはどーお?いつもよりたくさんたまごがもらえたのよ』」
ご覧の通り、俺は母親役だった。
「『わーい』」
イリスがぴょんとジャンプする。
「『たまごだいすきー』」
マルが床を転がる。
見ての通り、イリスとマルは子供役。
「毛がくしゃくしゃになってしまいますわ……」
マルが、一人小さく呟く。
俺と結婚したという設定の父親役は、
「キュ〜イ」
トカゲ。
一緒に席に着いているハニトラは、裏庭で迷子になっていた記憶喪失のお嬢さん役だ。
……設定どうなってんだよ。なんて思うけれど、あのハニトラの銀色の髪を見れば、そんな設定を付けたくなるものわかる。
本人にその気が無くても、ハニー・トラップはハニートラップなのだ。
「『なんておいしいたまご……。うっ……きおくが……!』」
思った以上にシリアスなそんな展開で、人形遊びはつつがなく続いた。
しばらくすると、子供は親らしきオークに呼ばれ下へ降りて行った。
部屋には、ユキナリ達だけになった。
「……大丈夫か?」
声を落とし、ユキナリは点呼を始める。
「ハニトラ」
「元気!」
「マル」
「無事ですわ」
「イリス」
「はい。問題ありません」
「トカゲ」
「キュゥ……」
トカゲは一度、床に放り投げられたせいか元気はない。
「トカゲ、動けるか」
「キュウ〜〜〜」
怒った声ではあるが、怪我はないらしい。
問題があるとすれば……。
「どうやってここから出るかだな」
「ですわね。窓はありますが窓枠などもなく、真っ逆さますぎて役に立ちませんわ。あとは……」
全員で階段を見る。
「あの、階段ですけれど」
ユキナリは、一人下を覗いてみる。
ほとんど梯子のようなその階段を、一段一段降りていくのは、かなりの苦労を伴いそうだった。
それも、家に誰もいないのならばまだしも、下の階にはオークが複数いるはずなのだ。
「夜……寝静まってから動いたほうがいいかもしれないな」
下の階を覗くと、オーク達の声がした。
家族団欒しているらしい。
到底降りられるものではない。
メンバーはまた、自分の位置につく。
しばらくして、オークの子供が戻ってきた。
晩御飯でも食べていたのか、かなり時間が経っていた。
窓の外はもう暗く、星が輝いている。
子供は、地面に顔をつき、
「ふん、ふん」
とまたもや何か理解したような声を出した。
俺達が居る事を確認でもしたようだった。
また、遊びに付き合わないといけないのか、と思いかけたところで、がばっとオークの子供が俺達を抱えた。
「!!??」
なんだ?一緒に寝ようってでも思ったのか?
このまま火に焚べられる可能性がある事も考慮しながら、ユキナリは短剣に手を伸ばす。
じゃなくても、万が一親に見られたら一巻の終わりじゃないか?
子供は何も言うことがないまま、ユキナリ達を下の階へ連れて行った。
マルはもともとどっちかというと毛がボサボサタイプです。自分でとけないですからね。