151 森の道(5)
まてまてまてまてまて!
俺達は、オークの子供の両腕に抱きかかえられていた。
犬猫サイズはある俺達を難なく抱えるオークという種族に恐怖を覚える。特に、あの重さのイリスを。
「ぐ……っ」
勢いで、ハニトラに密着してしまう。
むにん。
悪くない感触がユキナリの頬を捉える。
「………………」
…………じゃなくて。
コホン。
この状況は、まずいんじゃないのか。
このまま連れ去られれば、どうなるかわからない。
とはいえ。
戦って、大人を呼ばれてもかなわない。
飽きるのを待った方が、安全なような気がした。
黙って運ばれていると、子供は、一つの家の裏手に辿り着いた。
家の中に入るのか……。
家に入って、その後は?
脱出するチャンスは来るだろうか。
……まさか、食料にされたり、なんてないよな?
焦る一行の中、そこで声を上げたのは、イリスだった。
「すみません!」
子供は、気付かない。
もう一度。
「すみません!」
そこでやっと、子供はイリスの声に気付いた。
家の裏庭の真ん中に立つ。
庭は、隅に小さな畑のある、周りを石塀に囲まれた長閑な場所だ。
石塀は、オークにとっては低いもののようだったけれど、幸いな事に、背の低い子供の手の中のユキナリ達は周りから見えづらくなっていた。
子供は、じっ……と顔を寄せてユキナリ達を一人ずつ眺める。
「すみません」
また声をかけたのが、イリスなのだとわかると、子供は口をまんまるにした。どうやら驚いているらしかった。
やはり、生き物だと思われていなかったのだろうか。それとも、話すと思われていなかった?
「イリス達は、生きているんです!人形ではないんです!イリス達を、どうか離してくださいませんか」
イリスは、今までに聞いたことのない大きな声で子供に訴えかけた。
「この村を通り抜けたかっただけなんです!」
子供は声を発さずに、ただ、イリスを見て、そして時々、俺達に目をやった。
……これが事態を好転させるものかどうかはわからない。
生きていると知った子供が、俺達をどこかに閉じ込めるかもしれない。
緊張が走る。
子供は、どう動くだろうか。
お願いだ。
ここに置いて行ってくれ。
念を送るように、じっと子供の様子を窺った。
けれども、そんな5人の期待とは裏腹に、子供は、俺達を家の中に持って入ったんだ。
家の中。
梯子のような階段をえっちらおっちら登る間も、子供は俺達をその腕から離そうとはしなかった。
屋根裏のような場所で、俺達はやっとその腕から解放される。
しかし、そこは逃げ場のない場所だった。
2階、と一言で言うのは簡単だ。けれどここは、オークの家の2階。
崖の上なんてものじゃない。
窓にガラスは入っていないが、到底出て行けるものでもない。
状況に呆然としながらも、5人、集まろうとする。
しかし今度は、ユキナリが空中に浮き上がる番だった。
子供の大きな手が、ユキナリを掴む。
思ったよりは苦しくはないが、いつ潰されても、おかしくはない。
そんな状況であろう事かその子供は、ユキナリを再度床に近付けるとこう言ったのだ。
「『きょうのごはんはにんじんとたまごのいためものよ。さあ、おかいものにいかなくちゃ』」
始まってしまった人形遊び。まさかのおもちゃ箱行きでしょうか。